観戦者のように
「流石は烏合の衆と言うべきなのか、ただの賊の集まりよりはマシだとは思っていたのだけど、存外脆いものだな」
目の前でドサリと倒れた兵士には目もくれず、無様に逃げ惑う兵士たちを眺めながら、ヒヅキは感情の感じられない冷めた口調でそう呟くと、冒険者たちが戦っていた方向に顔を向ける。
「向こうは……大丈夫そうだな」
小鬼全体に広がる混乱に上手く乗じて反撃を行っている冒険者たちの様子を確認したヒヅキは、もう加勢する必要がないとみて視線を切ると、まだ混乱の続く戦場を後にした。
冒険者たちを助けてから半刻ほどが過ぎただろうか、ヒヅキは小鬼たちの拠点の近くに到着していた。
「俺の記憶が正しければ、確かここには森の管理や避難の為の道具が置かれた小屋が数棟あっただけだったはずだけど……」
素人建築のような造りの家が数十と建ち並び、それを荒い造りながらも木で出来た壁がぐるりと取り囲んでいる様子に、「まるで急造の城だな」と、森の中で木が大量にあるとはいえ、一月ほどでよくこれだけのものを造ったものだと、僅かながらに感心した様子の呟きを漏らしたヒヅキだったが、
「それでもこの程度なのか」
すぐに落胆の息を吐いた。
「これでも少しは楽しみにしていたんだけどな」
中々の建築物ではあるが、それでもあまりに雑で穴だらけの防備に、みるみるうちにヒヅキはやる気を失っていく。
「やっぱり、ここに集った冒険者たちは、さっき見掛けたあの冒険者たちのようなたいした経験のない駆け出しの寄せ集めだった、ということなのかな」
全員を見た訳ではないが、少なくとも今まで見掛けた冒険者たちは小鬼と共謀している様子のなかったことから、ヒヅキはそう結論づけた。
「はぁ……この辺りの住民にとっては死活問題でも、冒険者側にしてみれば駆け出しに経験を積ませるいい訓練の場だった、ということなのかね」
ヒヅキは呆れたようにそう呟くも、自分もこの辺りの住民のはずなのに、そこには怒りのようなものは欠片も感じられなかった。
それは、しょせんはヒヅキにとってもこの件は他人事でしかないということの現れでもあるのだが、それにヒヅキ自身は気づいてはいなかった。
「さて、せっかくここまで来たんだ、当初の予定通りにさっさと終わらせてしまうかね」
そう自分に言い聞かせて無理矢理やる気を起こすと、ヒヅキは小鬼の本拠地への侵入をはじめたのだった。