嵐の前の10
「ヒヅッキー! 無事だったのかー!」
小走りに近寄ってきたシラユリは、安堵の笑みを浮かべてヒヅキを見上げてくる。
「はい。何とか」
それにヒヅキは頷きを返す。実際は死にかけたものの、それを正直に話す必要はないだろう。
「一緒に帰ってきた冒険者に少しは話を聞けたが、大量のスキアと戦ったんだってなー? やっぱりヒヅッキーは凄いんだなー」
「いえ。皆さんがそれぞれ奮戦されたからですよ」
実際、戦った全ての者が奮戦していたのだから嘘は吐いていない。例えヒヅキ以外の全員が倒したスキア数を足しても、ヒヅキ個人が倒した数の方が上回っていようとも。
「結構死者も出たと聞いたからなー。それでも、あれだけの数が生きて帰ってこれたのは凄い事だぞー」
「そのようですね」
それは色々な人から聞いた話であった。スキアは砦を集団で襲う。その集団に狙われ落とされた砦の生存者はかなり少なく、二桁も生き残りが居れば多く生き残ったと言われるほどだとか。
「まぁとにかく、無事に帰って来てくれて良かったよー」
「ご心配をおかけしました」
少し眼尻に涙を浮かべ安堵の表情を浮かべたシラユリに、ヒヅキは心配かけて申し訳ないと頭を下げると、ギルドについて訊こうと口を開く。
「ところでシラユリさん。サファイアさんとカトーさんの所属しているギルドの場所はご存知でしょうか? 帰ってきたので顔出しぐらいはしておきたいのですが」
ヒヅキの問いに、シラユリは思い出すような間を空ける。
「おっぱいにわざわざ報告しなくてもいいとは思うが、その二人が所属しているギルドがある場所は――」
そこまで答えて、シラユリは受付の女性に目を向ける。それに女性は受付の机の下から一枚の地図を取り出す。それはギルド区画の地図であった。
「現在地はここで、おっぱいの所属ギルドがここで、カトーのがここ。分かったかー?」
地図上を指でなぞりながら道順を含めて説明するシラユリに礼を言うと、ヒヅキはもう一つのギルドの場所を問い掛ける。
「それともう一つ、ソレイユラルムというギルドがガーデンで拠点としている場所をご存知でしたら教えて欲しいのですが」
そのヒヅキの言葉に少し驚いたような表情を見せたシラユリだったが、直ぐに先程サファイアとカトーの所属するギルドの位置を説明するのに使った手元の地図上に目線を落とす。
「何でヒヅッキーがそんな大手ギルドの場所を知りたいのかはしらないが、確かカトーの所属しているギルドの近くで、ここだったはずだぞー」
シラユリがその小さく可愛らしい指で示した三か所を記憶したヒヅキは、改めてシラユリに礼を言う。
「今から全部回るのかー?」
「その予定です」
「だからそんなに荷物が多いのかー」
「はい」
ヒヅキが手に持つ荷物に目を向けてのシラユリの言葉を、ヒヅキは首肯する。そんなヒヅキに少々呆れた様な息を吐くシラユリ。
「ならここでこれ以上話している時間は無いなー。気を付けて行くんだぞー」
そのシラユリの気遣いに感謝しつつ、それではと頭を下げたヒヅキがギルドを後にしようとすると、その背中にシラユリが言葉を投げる。
「また遊びに来いよー。いつでも待ってるからなー」
それに顔をシラユリの方に向けると、ヒヅキは笑みを浮かべながら、頷くように頭を下げた。