嵐の前の8
翌朝。
目を覚ましたヒヅキが窓の外に目を向けると、どうやら起床時間が早かったようで、外はまだ暗いままであった。
「今日は顔出しの為にギルド巡りをして、ついでにソレイユラルムのガーデンでの拠点の場所を調べないとな」
ヒヅキは今日一日の予定を思い浮かべると、起き上がって一度伸びをして、ベッドから下りた。
朝の支度というものはそれ程やる事がある訳ではなく、シロッカス邸に来てから用意された寝間着から普段着に着替えると、洗顔や歯磨きをして目を覚まさせる。ガーデンはヒヅキの故郷に比べると水事情が随分と良いようで、多少なら贅沢に使うことが出来た。その恵まれた環境が少し眩しくて、ヒヅキは帰ったら村で井戸掘りでも試してみようかとも考える。簡単な事ではないが。
「水、ね」
もしくは水の魔法が使えたならばまた違うのだろうがとも考え、ヒヅキは小さく自嘲めいた笑みを浮かべた。
「これは借り物だろうに」
ヒヅキが使える光の魔法。それは謎の多い魔法ではあるが、威力は圧倒的。しかし、それはあの謎の声の主達からの借り物だとヒヅキは認識していた。
「井戸よりは湧き水でも探した方がいいのかね?」
カーディニア王国の南側国境近くには河川が無く、付近にある水源は竜神の泉という神聖視されている泉があるぐらいだ。ヒヅキは直接自分の目で確かめた訳では無かったが、そこは穢れたと聞かされていた。ただ、どう穢れているのかまでは知らなかった。
「まぁ今は保留でいいや」
故郷に帰るのは後になるだろうと、ヒヅキはその考えを一旦棚上げにする。帰れるのは早くともスキアの件がもう少し落ち着いてからだろう。幸い南側国境付近にスキアが姿を見せたという話は耳にしていなかった。
「まずは通行手形を頂いてからなんだが……」
その件については、褒賞を携えた使者が訪れるという話ではあったが、今回の件が片付かなければガーデンの外には出させてくれないだろう。一緒に防衛依頼も持ってくるという話もセットであった訳であるし。
「はぁ。どうしてこうなったかね」
元々は外に出て見聞を広める為だけだった旅が、今では国の要を守る戦いの渦中にいる。不思議なものだとヒヅキは思うものの、当初の予定であった調べ物が済んでいるのに足止めをくらっている現状に、ヒヅキはほんの僅かな苛立ちを覚えていた。
「今日中にギルド回りを済ませて、明日に使者が来て欲しいものだ。スキアも攻めるならさっさとして欲しいし、攻めないならどっか行ってくれないものか」
ため息を吐きつつ朝の支度を終えると、ヒヅキは朝食の呼び出しがあるまで自室に戻る。そのまま、外が明るくなるまで考え事をしていると、朝食の準備が出来た事の呼び出しがかかった。




