嵐の前の6
ヒヅキがシロッカスに報告を終えた翌日。ヒヅキは図書館へと足を運んでいた。
「お久しぶりですね」
図書館に入ると、受付に居た黄色髪の女性が親しげにそう声を掛けてくる。
「少しガーデンを離れていましたので」
「そうでしたか」
ヒヅキの言葉に、女性は納得したように頷いた。
「本日はどのような御用件でしょうか?」
問われたヒヅキは、少し考える。この図書館に収められていた各種族の伝承の類いは、読める分は既に読み終わっていた。
そして、今回図書館まで足を運んだのは魔法について少し調べようかと思い立ったからで、それを正直に伝えてもいいものかと少し悩んだから。
というのも、魔法というものは一部の冒険者が使えるもので、冒険者以外で使える者はかなり少ない。特に実戦的な魔法使いは少なく、その極少数の中の大半は、有力者の庇護下で結構な地位に就いている。
そんな魔法を調べる者というのは限られてくる。中にはそこから要らぬ詮索を受けた者も居るとか。
「……少々魔法というモノがどんなものか知りたいのですが」
かといって場所探しに無駄に時間を浪費するのも避けたいが為に、ヒヅキは出来るだけ無難な言葉を選んで伝えたつもりではあるが、上手くいったかどうかは分からない。
「魔法関連ですね。でしたらこちらの区画です」
受付の女性は机の下から案内図を取り出すと、魔法関連の書籍や資料が収められている区画を教えてくれる。
「ありがとうございます」
「ごゆっくりどうぞ」
ヒヅキは受付の女性に礼を言って教えてもらった区画へと移動する。その区画があるのは、前回調べた伝承などが収められている場所とは反対側の通路であった。
しばらく移動して目的の区画に到着するも、そこに収まっている魔法関連の書籍類はそこまで多くは無かった。
それでも、ヒヅキはとりあえず一冊手に取り開いてみる。それを流しながら読んでみると、魔法には魔力と呼ばれるものが必要な事と、それを使用して魔法をこの世に具現化させるらしい事が書かれていた。
そして、術者とは魔力を魔法に変換させるための触媒らしく、介する為には理論の様なモノが理解できる必要があるのだとか。しかし、どうやらそれが問題で、どうやっても一部の者にしかその理論は理解できないらしく、その原理も上手く説明が出来ないらしい。
「だからこんなに少ないのか」
目の前の少ない蔵書に、ヒヅキは納得する。説明が難しく、例え出来たとしても素質あるものしか理解できないのであれば、やはり需要というモノは少ないのだろう。
ヒヅキは他の書籍にも目を通すものの、どれも魔法の説明というよりも具現した魔法の紹介やそれが起こした出来事についてしか書かれていなかった。
「光の剣……いや、光に関する魔法の話はどこかにないものか」
光の剣というよりも、神秘的なまでに輝くあの魔法自体がかなり珍しいらしく、どこかに記録が残っていないかと、少ない書籍を見落としが無いように丁寧に読み漁る。しかし。
「無いか……ならば魔法を使える人間に直接当たってみるしかないのか?」
図書館の蔵書は細かく読んでも一日で全て目を通せる程度しかなかったうえに、そのどの書籍にも探している答えは少しも見当たらなかった。あったのは電灯などに用いられている明かりを灯す魔法ぐらいであった。
その為、ヒヅキは次の手として魔法使いに直接訊いてみようと思い至るも、頭に真っ先に浮かんだ人物はルリだけであった。