嵐の前の5
「触っても宜しいでしょうか!?」
「それは止めておいた方がいいでしょう」
前のめりのアイリスの言葉を、ヒヅキはやんわりと、しかししっかりとした口調で止める。
「そうですか」
それに残念そうにするも、アイリスの目は光の剣に向いていた。
「それにしても、こんなに近くで見たのは初めてだが、これは美しいな」
それはシロッカスも同じようで、アイリス同様に光の剣に見入っている。
「まだご覧になられますか?」
「ヒヅキさんがよろしいのでしたら!!」
ヒヅキの問いに、アイリスは即答する。
「では、今しばらくこうしておきましょう」
少しだけ突き出すようにアイリスの方に光の剣を近づける。触れないと思いながらも、一応の警戒はしながら。
「神々しい光ですわ!」
「そうだな。でも、前見た時よりも少し暗いような?」
「それは出力を絞っているからです。スキアとの戦いのときの様な出力ですと強すぎますので」
「そうだったのか」
シロッカスとヒヅキが話す間もアイリスは飽きもせず光の剣に見入っている。
そんなアイリスと光の剣を眺め、ヒヅキは一つの疑問、というより考えが浮かぶ。
(光の剣は魔砲の弾になった。ならば、この光の剣も剣以外の形に出来ないのだろうか?)
それはスキアとの戦闘時以外では使用していなかった故に思いつかなかった発想だった。スキアとの戦闘は光の剣で事足りていたのも原因であろう。
「……ふむ」
「ヒヅキさん?」
光の剣を持つ手とは反対の手を顎に当て思案するヒヅキのその小さな声に、光の剣から目を上げたアイリスがヒヅキの名を呼ぶ。
「少し失礼します」
そう言うと、ヒヅキは光の剣を消失させる。
(危険はないと思うが)
魔砲の弾と化した時の光の剣は、射出して着弾さえしなければ危険は無かった為、ヒヅキは衝撃さえ与えなければ一先ずは問題ないだろうと判断する。
思い出すは、光の剣を魔砲の弾に生成した時の事。そうすると、何となくではあるが形を変える事は可能だと思えてくる。
「とりあえず」
ヒヅキは小さな球体を想像しながら光の剣を発現させる。すると。
「綺麗ですわ」
ヒヅキの手のひらの上に浮かぶように現出した、直径五センチほどの小さな光る球体に、アイリスは思わずそう零した。
「なるほど」
どうやら形は変えられるらしい事が理解できたヒヅキは、その光る球体に目を向ける。
(これも魔砲の弾だな)
前回生成した弾とは形状が異なっているものの、そう理解する。出力をかなり絞っているとはいえ扱いには気をつけないといけないなと内心で警戒を忘れずに。
「球体にも出来るんですのね!」
「ええ。ですが触れない様に気をつけてくださいね。これは先程の光る剣より危ないですから」
触れたそうな雰囲気のアイリスに、ヒヅキは事前にそう警告しておく。
「そ、そうなんですね」
それに残念そうにしながらも、アイリスはやはりその球体に見入っていた。
余程その光がお気に召したのだろう。それはヒヅキとシロッカスが会話を続けている間も変わらず、空が白みだす前にヒヅキが部屋に戻る直前までそのままであった。