嵐の前の4
食事を終えると、シロッカスはヒヅキに今後の予定について問い掛けてきた。
「それでしたら、エイン殿下より仕事の依頼が来るかもしれません」
「エイン殿下から?」
ヒヅキの言葉に驚きつつも、シロッカスは思案する。砦が落とされたこの時期に、今回の護衛でヒヅキの実力を知ったであろうエインがヒヅキに行う依頼とは何か、を。
「ふむ。ガーデンの防衛かな?」
「さぁ。後日今回の護衛の感謝の品が下賜されるらしく、その時に訪れた使者から何かしらの依頼をするかもしれないとしか伺っておりませんので、私はそれ以上詳しくは聞かされておりません」
「そうか」
ヒヅキの返答に、シロッカスは短く応える。
実際はシロッカスの予測通りにガーデンの防衛依頼ではあったが、何が災いするか分からないだけではなく、依頼主が依頼主な為に、軽挙妄動は戒めなければならないだろうという判断からの発言であった。
そんなヒヅキの判断を察したのか、シロッカスはそれ以上詳しくは訊こうとはしなかった。
「では、今回の護衛の話を聞かせてくれないか? 折角なので私の書斎でアイリスと共に聞かせて欲しいのだが」
「勿論です」
シロッカスの提案にヒヅキは快諾する。元々、依頼主であるシロッカスには今回の護衛任務の事を報告する予定だったのだ。
「それでは、ヒヅキ君の気が変わらぬ内に書斎へ移動しようか!」
「そうですわね! 御父様!」
そう言って椅子から立ち上がるシロッカスに、アイリスが嬉々として同意する。
そのまま三人はシンビを連れてシロッカスの書斎へと移動する。
書斎に入ると、シロッカスはヒヅキとアイリスにソファーを勧めて自分も座る。三人がソファーに腰を落ち着けると、シンビが温かいお茶をそれぞれの前に置いて退室した。
それ見届けた後、お茶を一口飲んだヒヅキは、今回のケスエン砦への援軍からエイン達の護衛任務の話を始めようとしたが、アイリスの要望でシロッカス達とガーデンを発ったところから話を始める。
ヒヅキの話を二人は興味津々と聞き入る。大筋だけ話しただけではあったが、ヒヅキの話が終わった頃には既に日付が変わってしまっていた。
話を聞き終わったアイリスは、目を輝かせて「凄いですわ!」 と興奮した声を出す。一方シロッカスは「ふむ」 と、感心したような重々しい声を出した。
話を終えたヒヅキは、すっかり冷めてしまった少し残っていたお茶を飲み干して喉を潤す。
「何か訊きたい事はありますか?」
ヒヅキがそんな二人にそう問うと、アイリスが勢いよく手を上げる。
「ヒヅキさんがスキアと戦った時に使用したという力が見てみたいですわ!」
「すいません。それは流石に難しいです」
「そうですわよね……」
頭を下げたヒヅキに、アイリスは残念そうに落ち込むが、光の剣までならまだ大丈夫かもしれないが、魔砲は確実に無理な話だった。
「…………」
そのアイリスの落ち込みように、ヒヅキは出力をかなり抑えた光の剣ならば出しても大丈夫だろうかと考える。
「……分かりました。でも、少しだけですよ?」
「はい!!」
秘密の話をするようなヒヅキの口調に、アイリスは驚いたように顔を上げて元気よく返事をする。
「大丈夫なのかい?」
それにシロッカスが心配そうに声を出すが、ヒヅキは問題ない事を告げる。
「では、いきますよ」
ヒヅキが突き出した手に光の剣が顕現する。だが、その刀身は戦闘時に比べるとかなり短く、光も弱弱しい。それでも初めて見たその剣に、アイリスは感動したような声を出した。