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嵐の前の2

 自室へと戻っていったヒヅキを見送ったシロッカスは、シンビに食事の用意をしておくように伝える。

「畏まりました」

 シロッカスに深々と頭を下げたシンビは、台所の方へと消えていった。

「それにしましても、本当にヒヅキさんが御無事で良かったですわ」

「そうだな。本当に良かった」

 アイリスの安堵の声に、シロッカスは頷き同意を示す。

 ヒヅキに頼んだ手前、シロッカスはヒヅキの身を心配していた。それだけ生存率の低い依頼だという事を重々承知していた為に尚の事。

「それにしても、あれだけの数をよく帰還させることが出来たものだ」

 シロッカスはエイン達が帰ってきたところを直接見てはいないが、報告の数を聞く限り、砦に居た総数の半数近かった。

 とはいえ、エインが居住区画に入る前に大半を解散させていたので、居住区の門の前に居たところで総数を目にする事はシロッカスには出来なかったが。報告は心配のあまりに第一の門に派遣していた者からだった。

「流石はヒヅキさんですわ!」

 目を輝かせるアイリス。それを見たシロッカスは、知らぬ間にアイリスとってヒヅキは憧れの存在になっている事を知る。

「そうだな。確かに彼は凄い」

 それを納得できるだけの実力がある事をシロッカスは幾度も見せつけられていた。それに性格の方も穏やかで控えめ。シロッカスはヒヅキに好感を持っていた。ただ、時折みせる陰がある表情が気にはなっているし、少々欲が弱いところも少し考えさせられるが、それは今後どうにかすればいい。

「ふむ。まぁ彼にならアイリスを任せてもいいかもしれないな」

「な! お、御父様!?」

 ポツリと呟かれたシロッカスの言葉に、アイリスは驚きのあまりにあたふたと無意味に手を動かす。

「ん? アイリスはヒヅキ君では不服かね?」

「そ、そんな事は!」

「ではいいではないか。勿論、ヒヅキ君が受けてくれれば、だけれども」

「そ、そうです! ヒヅキさんの御気持ちをないがしろには出来ませんわ!」

「つまりアイリスは問題ないと」

「そ、それは……そうですけれど」

 アイリスは赤面すると、ごにょごにょと口の中で言葉を転がす。暫くして。

「それにあんなに魅力的な方ですもの、想いを寄せる方は多いでしょうし、きっと御心に決めた方がいらっしゃいますわ」

「ヒヅキ君がそれを?」

「いいえ」

「なら分からないではないか。それに、私から見ればアイリスは最高に魅力的だと思うよ」

「それは御父様が御父様だからですわ」

「はは、かもしれんが」

 シロッカスは軽く笑う。しかし、アイリスに縁談の話は結構舞い込んでいるのも事実であった。シロッカスの財力や影響力を考慮しても多いぐらいに。中には有力貴族から是非にと申し出を受けてもいた。それどころか、正妻として迎え入れたいという貴族も居たほどだ。

 それをアイリスに伝えても、こういう場合の自信というモノは湧いてこない事をシロッカスは知っていた。

「少なくとも嫌われてはいないさ」

「だといいんですが」

「それは私が保証しよう」

 ヒヅキの真意までは判らないものの、シロッカスはそれだけは断言できた。それ程度の機微には敏感でなければ商人などやってはいけない。

「御父様がそう仰るのでしたらそうなのでしょう」

 シロッカスの言葉にアイリスは安堵する。シロッカスの人を見る目をそれぐらい信用していた。

「さ、ヒヅキ君が来るまで食堂で待っていようか」

「はい。御父様」

 シロッカスの言葉に頷いたアイリスは、シロッカスの後に続いて静々と食堂へと移動した。

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