仕事47
翌朝。
まだ空が僅かに白みだしたばかりの頃に朝食を済ませた一行は、早々に陣を払ってガーデンを目指しての行軍を開始する。
軍の移動や物資の輸送にも使われる為に広々とした整備された街道と、流れた雲がたまに太陽を隠すぐらいの雲量の青空。湿気の少ないからっとした空気は冷えていて、動く身体には有難いものがあった。行軍速度が異様に速いのはそれらも要因なのだろうが、一番は次第にはっきりと全容が見えてくるガーデンの城壁だろう。
兵士や冒険者の顔にはもうすぐガーデンに、家に帰れる事への喜びが浮かんでいる。
先頭を行くエインでさえも、普段よりも若干の喜色がその真剣な顔つきから窺えた。
それでも隊列が乱れるようなことはなく、整然とした歩みでガーデンへの道を行軍する。
総数三百程の整然とした行軍というものは中々に壮観なモノがあったが、まだ朝が早いからか、観客はほとんど見当たらない。
(いや、こちらが東側だからか)
その観客の少なさを目の当たりにして、ヒヅキはそう予測を立てる。
現在のガーデンは入国者よりも出国者の方が多い。それはスキアから逃げる為なのだが、その出国側は主にスキアが攻めてきていない南側か西側だ。特に南側が圧倒的に多い。
それでも前までは商人の姿を多数目に出来たものではあったが、それも激減しているようであった。
(商人は利に聡いが身の危険にも敏感だからな。その危険な状況下で富を成そうとするのもまた商人だけれども)
商売人の叔父を持つヒヅキは、その叔父の言動を思い出し、そう考える。危険な状況だからこそ成せる富がある事も知っていた。
そのままエイン一行は休むことなく街道を行軍し、夕方前にはガーデンに辿り着くことが出来た。
門では軽く検査を受けたものの、エインが居た為にそう時間は掛からなかった。流石に入国検査待ちの人はまだそれなりに存在していた。
ガーデン内に入ると、エインは兵士の宿舎などが集まっている一番目の城壁内で兵士の大半を解散させる。
残った一部の兵士と冒険者は更に二つ門を潜りガーデンの居住区に到着する。
そこでエイン達は冒険者と別れる。ヒヅキもやっとその場で開放された。その際、約束はしっかりと果たす事をエインに告げられると共に、ガーデン防衛については、事態を把握した後に使いを送るので、それまでは自由にしていていいという事を告げられた。
少数の兵士と冒険者を連れたエインは、ガーデナー城に向かう。その背を見送った残った冒険者たちは、それぞれ思い思いに解散していく。そんな中、ヒヅキは報告も兼ねてシロッカス邸へと足を向けたのだった。