仕事45
朝になり、エインの号令の下、宿舎前に一部隊を除いた兵士と冒険者の全員が整列する。
「全員揃ったか?」
各隊長にそう確認を取ると、エインはガーデン側に設置されている砦の西門へと移動する。
西門へ移動すると、先行していた部隊が物資を受け取り、いつでも出発できるように準備していた。
「世話になった」
エインは砦の主らしき厳つい人物声を掛ける。
「道中ご武運が在りますよう」
エインに声を掛けられたその男は、そう言って頭を下げた。
「そちらにも武運がある事を」
エインはそれに言葉を返すと、一行を引き連れて開いている門を潜ると、砦側に要らぬ不安を与えない為にしばらくの間少しゆっくりとした行軍速度で移動する。
そのまま進み、砦がかなり小さくなったところで行軍速度を一気に上げた。
それでも、前日にしっかりとベッドで休んでいただけに、初日から脱落者が出るような事態にはならなかった。
その後も小休止を一度挿みつつ、暗くなるまで移動を続ける。そんな行軍を十日程行うも、スキアの襲撃どころかその姿さえ見掛けなかった。
一行が何事も無く行軍を続けていると、ガーデンの高い外壁が見えてくる。ヒヅキは行軍しながら周囲を探るも、どうやらガーデンはまだ無事の様であった。
「ここで一度休憩をする。明日、ガーデンに入るまで休憩は取らないのでしっかり休むように」
まだ空に茜色が残っている頃にそうエインから号令が下され、一行は行軍を止めて野営を築く。
ガーデンまではまだ十数キロはあるが、街道は整備されて空気は冷たいので、何とか翌日中にはガーデンまで到着できそうであった。
目的地直前の為に荷物を軽くするという名分の下に、残った食材をふんだんに使った夕食が振る舞われる。それでちょっとした宴会の様に賑やかな兵士や冒険者を横目に、早々に自分の分の食事を終えたヒヅキは、喧騒から少し離れた場所で夜空を見上げていた。
「どうなるのかねー」
星が瞬く夜空を眺めてのその独り言に、後ろから声が掛けられる。
「それはこの国の行く末についてかい? それともこの世界の行く末についてかい?」
その声に顔だけを向けると、そこには夜空に瞬く星よりも輝く金髪の女性が立っていた。
「殿下、お一人で歩かれるのは危険ですよ?」
「君が居るではないか」
ヒヅキの忠告を呆れたような声でそう返すエインに、ヒヅキは小さく息を吐いた。
「殿下に頼りにして頂けるのは非常に光栄ですが、あまり私の力を過大に評価されても困ります」
「ハハハ」
ヒヅキのその言に、エインはおかしそうに笑う。
「スキアをあんなに圧倒する御仁の言葉とは思えんな。私の知る限り、君以上の実力者は居ないよ」
エインの言葉に、ヒヅキは数秒口を閉ざす。
「……それで、わざわざこんな場所までご足労頂けるとは、私に何か御用ですか?」
首を傾げるヒヅキに、エインは「いや」 と小さく口にする。
「特に用がある訳ではない。ただ夜風にあたろうとしたら君が居ただけさ」
「そうですか。それでは邪魔にならない様に私は一足先に戻らせて頂きます」
そう言って頭を下げて去ろうとするヒヅキに。
「一人は危険ではなかったのか?」
エインは悪戯っぽく声を掛ける。
「……では、少し離れた場所に居りますので」
それだけ言ってヒヅキはエインから少し離れた場所に移動する。
「…………ふぅ。すっかり警戒されているな。あいつらは少々意識し過ぎだ」
ヒヅキを過剰なまでに警戒する数名の側近の顔が浮かび、エインは小さく息を吐いた。