仕事44
エインが去った後、ヒヅキは念の為に周囲の気配を探る。
「まだ近くにスキアは来ていないな」
そう考えて、ヒヅキは現在のスキアの状況について考えをめぐらす。
ケスエン砦はヒヅキ達がスキアに襲われていた辺りで既に破壊されていたが、ヒヅキ達への襲撃の方は、ヒヅキが新たな力に目覚めたあの時以来行われていない。追ってくるわけでもないようなので、ではどこへと向かったというのか。
「迂回したという訳でなければいいけれど」
ガーデンに到着したらスキアの襲撃を受けていました。というのは勘弁願いたかった。既に陥落していたとしたらどうしようもないけれど。
ヒヅキは冗談交じりにそう思いながらも、念の為にもしガーデンが既になかった場合の事を考える。
「んー、その場合は通行手形は諦めるとしても、シロッカスさんやシラユリさん達は大丈夫かな」
ガーデンに居る知人達の顔を思い浮かべたヒヅキはそう呟く。とはいえ、近くに居ない為に何もできないと早々に思考を切り換えたのだが。
ここまで国がスキアに乱されているのに隣国がどこも攻めてこないというのは、長く築いてきた友好関係の為か、それともそんな余裕がないのか。どちらにしろ、カーディニア王国が無くなっては困るだろうから、援軍ぐらいは寄越してもいいものだが、ヒヅキは未だにそんな話は聞いていなかった。
「……考えたくはないが、どこも同じという事は無いよな?」
その嫌な妄想に、ヒヅキは深刻そうな顔をする。そうなっては、スキア討伐の為に国家間での協力関係の構築も難しくなるだろう。
「さて、一体世界はどうなっているのやら」
スキアの増殖と、そのスキアによる各国への侵攻。もしその両方が事実ならば、ヒヅキが知る過去の記録にある、世界の破滅への物語そのものだった。
「とはいえ、ここまで規模が大きいのは知らないけれど。それにしても……」
ヒヅキは白みだした空を見上げる。
「調べ物は間に合わなかったのかな……しかし、このスキアの侵攻は誰の意思なのかね」
どことなく嫌な感じを覚えたヒヅキは目を細めて、まだ昇っていない太陽の方角を睨み付ける。何となく、その嫌な感じというのは、太陽と月から感じる嫌悪感に似ている気がしたから。
「気のせいだといいが、分からない事だらけだな。あの声の主は何か知っていそうだったが、教えてはくれないものかね」
謎の声の主ともう一度会話できないかと考えるも、謎の声と会話出来たのはどちらも死んだときだけ。その事にヒヅキは苦笑する。
「流石にそんな賭けはリスクが大きすぎるな」
心の内で何度も一心に呼びかけてみるも、やはり何も返事は帰っては来なかった。そんな事をしている内に空がすっかり明るくなり、完全に朝となった。




