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仕事43

 翌日。

 日暮れ頃に眠りに就いたヒヅキは、まだ外が暗いうちに目を覚ました。

「少し早く起き過ぎたかな?」

 ベッドから降りて伸びをしたヒヅキは部屋を出ると洗面所に行き、朝の身を切るように冷たい水で顔を洗ってから宿舎前まで移動する。

 まだ暗い周囲を見渡すと、警備兵以外にもちらほらと動いている人影が確認出来た。

 耳を澄ましてみると、離れた場所から歓談する声が薄く聞こえてくる。方角から考えて、砦の中央付近にあった広場からかもしれない。

 大きく息を吸うと、冷たい空気が体内を冷やし、思考がはっきりとしてくるのが分かった。

 その後も、ヒヅキが身体を捻ったりして軽く身体を動かしていると、離れた場所から聞き慣れた声が聞こえてくる。

「おや、またこんな時間に会ったね」

 ヒヅキがそちらに目を向けると、そこには眩いばかりの金髪の麗人が歩いてきていた。

「これはこれは、エイン殿下。おはようございます。朝が早いのですね」

 ヒヅキの少しお道化た様な口調に、エインは愉快げに小さく笑う。

「ふん。君も相変わらず早いものだな。ここの寝心地は悪かったかね?」

「いえいえ、寝心地が良すぎて早くに寝すぎただけですよ」

「そうか。今日からガーデンまで引き続き世話になる」

「微力を尽くします」

「頼りにしている。ところで」

 そこでエインは雰囲気をどことなく幼いものへと変えて首を傾げる。

「君はなんでそんなに強いのだ? 私も君の様に強くなれるのだろうか?」

 好奇心からのその問いに、ヒヅキは困ったような笑みを浮かべた。

「私の強さは自分でも解りませんので、その問い対する答えを私は持ち合わせてはおりません」

「……そうか。その力に興味はあるが、解らないならしょうがないな」

「はい」

 ヒヅキはエインに話を流してくれたことへの感謝と、答えられない謝罪を込めてお辞儀をする。

「そういえば、君はガーデンではどうするんだい? シロッカス殿のお宅でゴロゴロしてるのかい?」

「いえ、何かお手伝いでもしながら殿下からの褒賞を待とうかと考えております」

「そうか。それならば、ついでに防衛の手伝いでもしてくれないか?」

「防衛の手伝いですか?」

「ああ。このままではスキアがガーデンに攻めてくるだろうからな。その際、我々に君のその力を貸してくれるであれば、とても助かるのだが。勿論、褒賞と報酬は出す」

 真剣な面持ちで言葉にするエイン。流石にガーデンが落とされる訳にはいかないという事らしい。

「……では、旅費の為に報酬だけ少し頂ければ」

「ははは。いいだろう。それなら防衛が成功した暁には、報酬以外にも駿馬を追加してやろう」

「いえ、そこまでは……」

「これぐらいは受け取ってくれ。でないと私が心苦しいのだよ」

 冗談めかしてそんな事を言うエインに、ヒヅキは苦笑する。

「では、その際は受け取らせて頂きます」

 頭を下げたヒヅキに、エインは満足そうに頷く。

「是非そうしてくれ。さて、そろそろ砦側に礼を述べてくるので、私は一度戻らせてもらうよ」

 そう言ってエインは背を向けると、ひらひらと手を振ってまだ薄暗い中を消えていった。

「……相変わらずよく分からない人だな」

 その背が消えていった方を眺めながら、ヒヅキは小さくそう呟いたのだった。

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