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仕事41

「それにしましても、皆さんお元気そうで安心しました」

 変な空気になりそうだったので、話題を変える為にヒヅキはそう口を開いた。実際、前線に身を置きながらも五人全員が無事に生きているというだけで僥倖だろう。

「運がよかっただけ」

「運も必要ですが、それだけでは無理ですよ」

 ルリの言葉に、ヒヅキは小さく笑って首を横に振りながらそう伝える。今回の様にスキアの大群と戦って生き残れた冒険者はそう多くはないとはいえ、それでも運がいいというのであれば、そんな場所に配されなかった冒険者の事を指すのだろう。

「貴方ぐらい強ければ、そう言えるかもしれないけれど」

 色々見て体験してきたのだろう。そう言ったルリはどことなく哀しげな表情を僅かに浮かべる。

「強い、ですか。だといいんですがね」

「え?」

 あの声の存在がなければ二度死んでいるヒヅキは、その言葉に苦笑めいた響きを乗せる。そもそも謎の声の助力が無ければ戦う事も出来ていないだろう。その事情を知らないルリは、その切実な響きに珍しく驚くような顔でヒヅキを見上げた。

「なんでもありません」

 お道化るように首を横に振ると、ヒヅキはわざとらしく視線をエイン達が入っていった建物へと向ける。

「殿下達は遅いですね」

 時間が掛かっている為に、一体何の話をしているのやらと思うヒヅキではあったが、王女ともなれば色々面倒な事があるのだろう。

「貴方はどうするの?」

 そんなヒヅキに言葉少なにルリが問う。

「どう、とは?」

「この後の予定」

「ああ」

 ルリの補足に意味を理解する。つまりはエインが戻ってきた後の身の振り方について問うているのだと。

「殿下がこのままこの砦に留まるのでしたら私は先にガーデンへと向かいますが、殿下が直ぐにでもガーデンに向かうのでしたら、このままついて行くつもりですよ」

「そう」

 ヒヅキの返答に、ルリは短くそう口にする。

「……ならば、エイン殿下がガーデンへと向かう事を私は願う」

 それだけ伝えると、ルリはヒヅキに背を向ける。

「また機会があれば」

「ええ。また機会がありましたらお会いしましょう」

 ルリは肩越しにヒヅキにそれだけ告げて去っていく。ヒヅキもその背にそう返した。

「…………相変わらず油断ならない人だ」

 兵士たちに紛れて見えなくなったその小さな背へと、ヒヅキは囁くような声音でそう告げる。

 前に旅をした時から、本質を見透かすようなその瞳がヒヅキは少し苦手であった。そこに興味以外は無いと理解しているからこそ普通に接しているものの、もしもルリが別の意図を持っていた場合、おそらくヒヅキは絶対に関わろうとしなかっただろう。だからこそ、普通に会話をしているものの、警戒だけは怠れない相手であった。

 そんな油断ならない相手が去った事で、ヒヅキは小さく安堵の息を吐いたのだった。

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