仕事39
エイン達が今後の方針を決めている間、ヒヅキは周辺警戒をしながら兵士や冒険者の手伝いをしていた。流石に治療は本格的な心得はなかったが、幸いそんな専門的な事以外の雑用が山のようにあった。
謎の声を聞いた後に体力も回復していた事で元気が有り余っていたヒヅキは、雑用を積極的に請負い、野営の中を動き回る。そのついでに、ヒヅキは軽く兵士や冒険者と言葉を交わしていく。
ヒヅキ自身、自分がよそ者である自覚があるので、エインに力を貸している間ぐらいの信用は得ていても損はないだろうという判断からだった。無用な諍いを起こされでもしたらそちらの方が迷惑である。それに、一応共闘しているのだ、信用はあった方がいい。
ヒヅキは食事が配られて、周囲が食べ始めてもせっせと雑用をこなしていく。それは全体的に落ち着き、医療班が食事を交代で摂りだすまで続いた。
その食事を早々に終えると、雑用を再開する。何せどんどんこなそうとも、雑用はそれ以上の速度で増えていくのだから。
(雑用とはよく言ったものだ)
決して目立たないものの、細々とした用事をこなしてくれる者の有難みを改めて実感しながらも、ヒヅキは雑用をこなしていく。
結局、ヒヅキがその雑用から解放されたのは、翌日に移動を再開した時だった。睡眠を取らない事には慣れていたヒヅキは、それでも平然としていた。
ヒヅキは休憩中も常にスキアを警戒していたが、一度も近くまで来る気配は無かった。
その後の次の砦までの移動も恙無く進み、重傷者が居た為に遅い歩みになったものの、七日後には到着できた。
(あのスキアは一体何処に移動したのか)
砦の開門を待つ間、ヒヅキは周辺を警戒しながら考える。
スキアに知恵がついたのか、それともスキアを統率・指揮出来る存在が現れたのかは分からないものの、現在のスキアは個ではなく群で行動している事は確かであった。それも国を落とすかのようにわざわざ平地の砦までをも攻めながら。
その行動原理については理解出来ていないが、それでもヒヅキには妙な確信があった。それは、このままスキアは周辺砦を落とした後にガーデンを攻め落とすつもりだというもの。
(スキアの目的か……)
ただ、どうしてもヒヅキにはスキアはガーデンを、というよりカーディニア王国を落とすのが目的ではないような気もしていた。しかし、その先に何を目指しているのかまでは、いくら考えても不明ではあった。
(世界征服とかかな? なんて)
目的が一国を蹂躙する事ではないのならば、世界を蹂躙する事だろうかとも考えたヒヅキは、まさかと少し苦笑する。しかし完全に否定できないのは、スキアという存在がよく分かっていないからなのかもしれない。