仕事35
(ああ、またこれか)
見える世界の時がゆっくりと流れる世界。それはかつてヒヅキがスキアに殺された時と同じ世界であった。
(俺も進歩しないな)
そうヒヅキは内心で苦笑する。またスキアに殺されかけている為にこの世界に迷い込んだのだから。
ゆっくりと持ち上がるスキアの触手を眺めながら、ヒヅキはまたあのよく解らない男の声が掛けられるのだろうかと思い出す。
『いや、残念ながらあの男ではないよ』
そんなヒヅキに掛けられたのは、どこか暗い感じの男の声だった。
(貴方は?)
『さぁね。僕は一体何者なのだろうね。その答えは持ち合わせがないな』
声の主は困ったような声音でそう発した。
『それよりも、君はどうしたい?』
(どうしたいとは?)
『生きたいかい? 力が欲しいかい? それとも、このまま死にたいかい?』
(……そうですね、私はまだ死にたくはないですね。それと、この状況を打開できる力ならば欲しいです)
『そうか、生きたいか。そして力を望むか……』
そこで声の主は数拍の間を置く。
『ならば強くあり続けろ。例えあれのおもちゃにされようとも』
(あれ? あれとはなんですか?)
それはとても重要な事な気がしたヒヅキは、声の主にそう問い掛けた。
『それはいずれ理解する事になるだろう。それよりも、今は力を授けよう。ついでに体力・気力を回復し、傷を癒しておこう。更におまけで魔砲二発分の魔力を上乗せしておこう』
(それは感謝いたしますが……)
『君に授ける力は魔砲。使い方は目を覚ませば理解出来るが、これは大軍相手の攻撃手段だよ』
(魔法?)
ヒヅキは首を傾げるが、それ以上声の主が答える事はなかった。
(とりあえず目を覚ませば理解出来るか。それにしても魔法ね。冒険者達が使っているようなモノなのかな?)
ヒヅキは目を覚ますべく意識を落ち着ける。すると、浮上するような軽さを感じ、意識が現実に戻ってくる。それであの声の主が言っていた魔砲というものを理解する。
それは魔法ではなく魔砲。光の剣を形成していた力を大量に集めて弾として放つ攻撃。説明すればそれだけだが、ヒヅキが理解したその威力は絶大なモノだった。ただし、消耗する魔力も膨大で、普段のヒヅキでは撃てて二発。今回は声の主の計らいで気力が回復されている上に余分に二発分の魔力が別途追加されているので、現在ヒヅキは魔砲を四発撃てる計算になる。ただし、これは他に何も使用しなければ、という事になるので、今回は三発ぐらいが限度であろう。
それを理解したヒヅキは、まずは目の前のスキアを退治しようと、何事も無かったかの様に立ち上がった。