仕事34
冒険者が突破される直前に地を蹴り向かっていただけに、エインの居る兵士の一団をスキアが襲うより寸刻早く到着できたヒヅキは、着いたと同時に襲い掛かっていたスキアを一体倒す。
「ヒヅキ君!」
その声にエインを含めた一団が無事な事を確認したヒヅキは、正面のスキアへと目を向ける。
「くっ!」
しかし、引き続きスキアを相手にしようとしたヒヅキではあったが、無理をし過ぎてとうとう力に限界が来てしまい、手元の光の剣が消失してしまう。
「まぁここまでよく保てたものだよ」
光の剣を修得したあの名も無き村の頃だと、そもそもケスエン砦に駆け付ける前には限界が来ていただろうから、ここまで保てたのはかなりの成長であった。
「これが無くなっても退けないってのは最高に絶望的だね」
ヒヅキが皮肉げに小さく笑うと、そのタイミングで人型のスキアが襲い掛かってくる。幸い身体強化まで切れた訳ではないようで、人型のスキアの殴りつける様な攻撃を回避する事は出来た。
「避けてばかりでは意味ないが」
回避は出来ても、未だに光の剣が出せるまでの回復は望めない。他にスキアに有効な攻撃手段を持たないヒヅキでは、目の前のスキアは倒せなかった。かといって、手の空いている冒険者が居るはずも無く。
どうしたものかとヒヅキが考えていると、人型のスキアの後方から植物型のスキアが現れ、人間の胴程の太さの触手の様な部分を鞭のように撓らせ攻撃してくる。その振り下ろされた触手の先に居るのは、ヒヅキではなくエイン達であった。
「殿下!!」
ヒヅキは急いで地を蹴ると、その触手を斬るべく光の剣を出そうと試みる。しかし、上手くいかない。
「ここが切所だろうに!」
悔し気にそう漏らすと、ヒヅキは触手を切断する事を諦めて、エインとその近くに居た側近の二人の男性をぶつかるようにして押し出した。
「ヒヅキ君!!」
突然突き飛ばされて驚きの声を上げたエインの目の前で、先程までエイン達が居た場所に入れ替わるように入ったヒヅキへとまともにその触手が振り下ろされた。
僅かに掠っただけで普通の人間ではその部位が持っていかれると言われるほどの威力を持つスキアの攻撃をまともに喰らったヒヅキは、いくら身体強化の影響で通常よりも頑丈になっているとはいえ、その生存は絶望的であった。
「なんてことだ」
エインは目の前の光景に何とかそれだけ言葉に出来ただけで頭が真っ白になる。次の攻撃に移るべくスキアがヒヅキの上から触手をどかすと、そこにはバラバラにこそなってはいないものの、土の上でも判るほどの血の海に沈むヒヅキの姿があった。