仕事33
エインが居た西側へ戻ると、既に兵たちは砦の外へと撤退済みであった。
砦から少し離れたところでスキアの相手をしている一団を防壁上から確認したヒヅキは、撤退する事は聞いていたが、そこまで撤退するなら最初に言っておいて欲しかったと若干思わなくも無かったが、無事皆が脱出出来たのなら別にいいかと思い直す。
ヒヅキは防壁上から飛び降りると、エイン達と合流すべくスキアを倒しながら堀を越える。
「限界が近いかな」
堀の向こう側に着地すると、ヒヅキは動かした己の身体の重さに顔を僅かに歪めた。
そのままヒヅキは無事にエイン達との合流を果たす。
「よかった、無事に合流出来たな」
エインは安堵の息を吐くと、全員に次の砦まで撤退する事を告げる。その号令にスキアを倒しながら緩々と撤退が始まった。
次の砦と言っても、ケスエン砦に比べると堀は浅く防壁も低い。これは元々市場や祝祭などで近隣住民が集まり、交流する事が目的で建てられた砦であった為に、予算も時間も膨大に掛かる防御施設はそれほど必要ないと、その砦が建てられた辺りを治めていた当時の領主が判断した為であった。
その更に先には小さな砦があるものの、防御力の高い砦は存在しない。これは平和な時代が長く続いた為に、王都周辺の砦の数を減らした為であった。
とはいえ、他に拠り所となる砦も無い為に、そこに移動しなければならない。エインの指揮の下にヒヅキ達は進むが、スキアを相手にしながらでは中々速度が出ない。
「…………」
それに、時間が経つごとに襲ってくるスキアの数が増えてきている事に気づいたヒヅキは、ケスエン砦の方に目を向ける。そこには、既に半壊を越えてもうすぐ全壊しそうな砦の姿があった。
ケスエン砦からはそれなりに距離が離れたとはいえ、次の砦まではまだまだ距離がある。周囲に目を向ければ、スキアと戦っている冒険者の疲労が目立つ。それはヒヅキも同じことで、体力の回復が間に合っていない。かといって、体力回復の為にスキアの襲撃がない場所に移動できるならば、そもそもこんな苦労はしないだろう。
どうするべきかとヒヅキが思案していると、新たなスキアの集団が姿を見せた。
「クッ!」
そのスキアの一団に近くの冒険者たちが当たる。しかし、その冒険者たちに最早新手を相手に出来る程の余裕が無いように見えたヒヅキは、自らを奮い立たせて目の前のスキアを手早く始末していく。
しかし、そんなヒヅキの奮闘も空しく、目の前のスキアを片づけ終わったヒヅキがその冒険者の方へと駆けだした時には、スキアが冒険者たちを突破してその背後の兵達に襲い掛かるところであった。しかも、その中にはエインの姿も確認できた。