仕事32
「お待たせしました」
男性は息を切らしながらもエインの前で立ち止まる。
「ご苦労。それで、状況は?」
「準備の方は概ね完了致しましたが、東側の防壁を破られる方が早いかもしれません」
「・・・そうか」
エインは考えるように顎に手を置く。
「ヒヅキ君」
「援軍として向かうのは構いませんが、連戦で大分疲弊していますので、今赴けば撤退時に影響が出るかもしれませんが?」
先読みしたヒヅキの返答に、エインは一瞬黙り込む。
「だが、見捨てる訳にもいくまい。無理を承知で頼む!」
「判りました。では」
苦しそうなエインの声に、ヒヅキは会釈すると反対側の戦線へと急行する。
全力で駆けたヒヅキが到着した時には、防壁の一部が崩され、戦線が崩壊しかかっていた。
「ギリギリか!」
ヒヅキは更に防壁を破壊しようとしているスキアへと斬りかかりながら、防壁の下へと跳び降りる。
「相変わらず数が多いな」
防壁付近のスキアを倒しながら、ヒヅキはそう愚痴を零す。
少し長めに休憩を取ったおかげで直ぐに息が上がるような事にはならなかったが、それでも数の多さを覆すまでには至らない。
ヒヅキが防壁上に意識を向けると、多少はマシになったものの、戦線は未だに混乱していた。もう持ち直すことは不可能だろう。
それでもエインが撤退させるなり何かしらの処置を施すだろうと信じて、ヒヅキは眼前のスキアの相手に徹する。
人や獣、植物に脚の生えた魚の様なモノなど、襲いくる様々な型のスキアを返り討ちにしていると、ヒヅキは少し息が上がってくる。
「まだか!?」
一瞬視線を防壁上に向けると、隊形を整え撤退を開始しているのが窺える。しかし、それでもやっと一部が撤退を始めたばかりであった。
「そろそろきつくなってきたな」
ヒヅキは戦いながらどうにか息を整えようとするも、間断無く襲い掛かってくるスキアのせいで上手くいかない。
それでもヒヅキは戦い続け、防壁の一角で破壊音が響きそちらへと目を向けと、そこには砦内へ侵入していくスキアの姿があり、周囲のスキアもそれに続く。
ヒヅキは防壁上に意識を向けると、どうやらギリギリ撤退が間に合った様だった。
「こっちも退くかな」
人間より砦の方に興味があるのか、ヒヅキへの攻勢が緩んだ隙にヒヅキも防壁上に退く。どうやら砦全体で撤退が行われているようで、人の姿はあまり無い。
「どうやってるんだ?」
ヒヅキは周囲を確認して困惑する。スキアはまるで誘導でもされているかのように特定の場所からしか侵入していなかったのである。
「これが準備の結果か? 殿下は一体何を御知りなのやら」
その光景を目にしたヒヅキは、スキアについて自分より知っていそうなエインに初めて少しだけ興味を持ったのだった。