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再会

「……………」

 ヒヅキは足下に転がる五つの物言わぬ塊を眺めながら、内心で小さくため息を吐いた。

 コズスィの国旗が目に入った瞬間に湧いたどす黒い感情はなんとか抑えることには成功したのだが、それでも完全に抑えられるものではなかったようで、幾分動きが単調になっていた。

「まだまだ俺も修練が足りないな」

 かつての虚しさを思い出したヒヅキは少し寂しげにそう呟くと、首を軽く左右に振った。その一連の動作が終わるころには、足下に転がる五つの肉塊の存在など意識の端にも残っていなかった。


 そのあとも、小鬼の籠る本拠地に向けて歩みを進めていたヒヅキだったが、少し離れたところから聞こえてきた金属同士のぶつかる音や、野獣のような本能のままの叫び声に足を止めてそちら側に顔を向ける。

「やっと冒険者の方に遭遇かな?」

 その金属と叫びに誘われるように、ヒヅキはそちらへと足を向ける。

「……おや?」

 ひっそりと音源の近くまで近寄ったヒヅキは、僅かな驚きを含んだ声をあげた。そのヒヅキの視線の先では、いつぞやミーコの酒場で遭遇した冒険者たちが小鬼と戦っていたのだった。

「やはり彼らは冒険者だったか。それにしても、彼らも来ていたんだな」

 現在この付近の村や町に居る冒険者は小鬼退治に来ているのがほとんどなのでそうではないかと予想はしていたが、よもや森の中で遭遇するとまでは思っていなかったヒヅキは、その妙な縁にどこか感心しながらも、木の上に移動してから冒険者と小鬼との戦いを観察する。

「……う~ん?」

 観察をはじめてすぐにヒヅキは首を捻る。

「あれはどうみても……」

 眼下の戦いは冒険者優勢で進んではいるのだが、それでも圧倒的に数で勝る小鬼も負けてはいなかった。しかし、それは単に数の差というよりも。

「彼らは戦闘経験に乏しいのか?」

 冒険者たちのあまりの動きの悪さを目の当たりにしたヒヅキはそういう印象を受けると、ひとつの疑問が頭に浮かぶ。

「冒険者という方たちはこんな連中ばかりなのだろうか?」

 他の冒険者もただその身体能力と魔法適性の高さにモノを言わせただけの戦闘を繰り広げている彼らと同じならば、未だにこの森の小鬼が退治されずにいるのも納得出来るというものだった。

「まぁ、そんなはずはない……はずなんだけどね」

 冒険者がこの世界の歴史に登場してから約千年の月日が経つという。それまでに幾度となく世界の危機を救ってきた冒険者がこの程度のはずはなかった。ならば、

「駆け出し、というところかな?」

 冒険者には冒険者の社会というものが存在する。簡単に言えば、ギルドやクランなどと呼ばれる冒険者の組合と、それを束ねる機関が存在するという単純なものだが、ギルドは人々の依頼を請けてこなすのを主な生業なりわいとしている。その組合には名の知れた者も存在すれば、当たり前だが、眼下で稚拙な戦闘を繰り広げている冒険者のような駆け出し、つまりは新人も在籍していた。

「さて、どうしたものか」

 眼下の冒険者に助太刀するべきか、それとも小鬼の本陣へとさっさと向かうべきか、ヒヅキは逡巡する。というのも、動きは悪いがさすがは冒険者というべきか、冒険者たちはほっといても何とかなりそうに思えたからであった。

「まぁ、知らない仲ではないしな、一応」

 ヒヅキはため息を溢しそうになるのを堪えると、静かに木の上から降りる。そして、戦っている小鬼の後方へと素早く、それでいながら見つからないように静かに移動するのであった。

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