仕事29
ヒヅキと男性は残った最後の方面へ移動すると、前回までと同様に指揮官に男性が話を通し、話がまとまったところでヒヅキはスキアの中へと飛び降りた。
防壁から飛び降りたヒヅキは1、2分間襲い来るスキアを倒して消滅させ続ける。そのまま九体倒した辺りで防壁上まで戻ってくる。
「はぁはぁはぁ」
膝に手をつき、息を乱すヒヅキ。疲れるまでの間隔が短くなってきていた。
「お疲れ様です」
ヒヅキに近寄ってくる男性。
「これで少しは長く休めますか?」
「はい。ですが、少し休みましたら一度エイン様の下まで戻りたいと思うのですが……」
「分かりました」
「ありがとうございます」
男性はヒヅキに頭を下げる。それから少しして、ヒヅキ達はエインの指揮する砦西側へと戻る。
「ただいま戻りました」
男性はすぐさまエインの近くに寄ると、そう告げる。
「ご苦労。それで? 戦況はどうなった?」
男性がエインに各方面の戦況報告をしている間、ヒヅキは少し離れたところで立ったまま身体を休める。
そうしながら周囲の状況も確認する。
どうやら男性の言葉通りにこちらは比較的安定して守れているようで、防壁上の兵士や冒険者の表情には他の方面よりも少しだけ余裕があるように見えた。
(それでも、ここの砦はもうそこまで長くは保てないだろう)
圧倒的な数の差というものは、そう簡単にはひっくり返らない。ましてスキアは単体でも冒険者数名が必要な存在なのだ。戦力差もありすぎる以上、いくら砦があろうとも、それは数の差を覆すには至らない。それに、ヒヅキがスキアを倒して数を減らしても、それには限度がある。ヒヅキの武器は光の剣一本。長さはある程度自在に変えられるとはいえ、それは単体もしくは少数の敵を相手にするもので、間違ってもそんな剣一本では大軍を相手には出来ない。
ヒヅキがしばらくそうして休憩していると、話を終えたエインが男性を供に近づいてくる。
「助かった。感謝する」
そう言うと、エインは躊躇せずにヒヅキに頭を下げる。
それにはヒヅキだけではなく、御付きの男性も驚く。
「で、殿下! 頭をお上げください!」
流石に王族に頭を下げさせるというのは外聞が悪いうえに下手をすると士気にも関わると、ヒヅキは慌ててエインに頭を上げさせる。
「そうか? 君のおかげでこの砦は多少延命出来たのだ、感謝を伝えるのは当然だと思うのだがな」
「それは時と場合によるかと」
「ふむ。まぁそうか。ならばこの戦いを無事に終えることが出来た時には改めて礼をさせてもらおう」
そう言い終わると、エインは「さて」 と言って話題を変える。