仕事28
息を整える程度の短い休憩を取ったヒヅキは、男性と共に次の防衛線へと移動する。
「また同じようにすればいいですか?」
その道中、ヒヅキは一歩分先を移動する男性に問い掛ける。
「あちらの指揮官に確認しますが、おそらくそうなるかと」
「分かりました」
ならばギリギリまで体力を回復していた方がいいだろうと判断したヒヅキは、身体強化の効果を弱め、スキアの群れに飛び込むまで魔法を極力控えるようにする。
そうして到着した戦線で男性が指揮官を見つけて話を始めた時、横からヒヅキを呼ぶ声が掛けられる。
「そこに居るのはヒヅキさん?」
どこかで聞いた事があるその声にヒヅキがそちらに顔を向けると、そこには桃茶色の髪の女性が立っていた。
「……サーラさん?」
一瞬名前が出てこなかったヒヅキではあったが、何とか変な間になる前に相手の名前を思い出す事が出来た。
「何でここにヒヅキさんが?」
よく見るとその後ろには見慣れた四人の姿もあった。
「少し仕事で」
そう答えたところで指揮官と話を終えた男性が戻ってくる。
「ヒヅキ殿、話は通りました。またお願いできますか?」
「分かりました」
ヒヅキは男性に頷くと、サーラ達に「では」 と挨拶をして防壁上から飛び降りた。
「あ!」
突然のヒヅキの行動に、サーラ達は思わず声を出すと、防壁上から外を確認する。
そこには何事もなく着地しているヒヅキの姿があり、そこで指揮官からヒヅキが味方である事などの説明が入る。
「凄い」
その説明の間にも光の剣でスキアを次々消し去っていくヒヅキの姿に、サーラ達は思わずそう声を漏らした。
「ヒヅキさんってあんなに強かったんだ」
「力の使い方を知った」
「え?」
サーラの言葉にルリがそう告げる。それにサーラはどういうことかと首を傾げる。
「内の力を少し使えるようになった」
「あの時の話はこういう事だったのね」
喋りながらも攻撃魔法を繰り出すルリに、ルルラがソヴァルシオンに向かう途中での会話を思い出し納得する。
「なにそれ?」
弓でスキアを狙いながらのサーラの質問に、ルルラはその時の会話を話す。
「へぇ。確かに強者だわ」
それにサーラは呆れ混じりにそう感想を口にする。
そんな会話をしている内にあっという間に十体のスキアを倒したヒヅキは、防壁上に戻ってくる。おかげで戦線は少しだけ押し返せていた。
「お疲れ様です」
「少し休みます」
労う男性にヒヅキは短くそう告げて呼吸を整えながら休憩をする。
「次は反対側ですか? エイン殿下の方ですか?」
「エイン様の方面はヒヅキ殿のおかげで大分スキアの勢いを削げたので、残るは反対側です。そこが済みましたらもう少し長く休憩が取れるかと思います」
「そうですか、分かりました」
数度深呼吸をして表面上は完全に息を整えると、ヒヅキは男性に告げた。
「さぁ、次に向かいましょうか」




