仕事26
ヒヅキはケスエン砦の城門前まで辿り着く。
「先ほどからそこで戦っているお前は何者だ?」
堀の向こう側にある高い防壁の上からヒヅキへと女性が問い掛けてくる。
「ん?」
ヒヅキはその声に聞き覚えがあり、スキアの隙間からチラチラと見える砦の防壁の上に目を向けた。
そこからヒヅキの方へと目を向けていたのは、離れた場所からでも判るほどに鮮やかな金髪の女性であった。
顔は判らないが、それが誰かはヒヅキには理解出来た。
それは昨夜ヒヅキがスキアの事を警告した女性で、出発時にシロッカスと会話していた女性だった。
それはつまり、エイン姫殿下その人の可能性が非常に高い人物。
「武器輸送の護衛をしていた者です!」
ヒヅキは怒鳴り声にならないように気をつけながら、大きな声で返答する。
「なんだと! ではシロッカス殿はスキアにやられたのか!?」
焦るような声を出す女性に、ヒヅキは答え方が悪かった事を悟る。
「シロッカスさんはガーデンへと帰還中です。私はシロッカスさんの指示でこちらの援護に来た次第でございます!」
「そうか! 無事ならばよかった」
ホッとした声音も束の間、女性は直ぐに申し訳なさそうな声でヒヅキに言葉を掛ける。
「ここまで駆けつけてくれた君には大変申し訳ないが、今は門を開けるわけにはいかないのだ!」
それはそうだろうなと、ヒヅキは周囲のスキアへと目を向けて思う。今門を開けたらスキアが雪崩れ込む事だろう。
「それなら大丈夫です!」
ヒヅキはそう返答すると、脚をより強化しながら走り、道中の邪魔なスキアを排して堀を飛び越える。
堀を跳び越えた後は、石を積み上げられて築かれた壁の、石と石の僅かな隙間を足場に、防壁を跳び越えて上へと到着した。
「器用なことをするな」
少し離れた場所に着地したヒヅキに、女性は呆れながらそう声を掛ける。
「これは殿下、お初に御目にかかります。で、いいのでしょうか?」
困ったようなヒヅキに、女性はおかしそうにしながら答える。
「あの時は名乗ってなかったからな。私はエインだ。一応第3王女らしい」
頭を下げるヒヅキに、エインは手を差し出す。
「え?」
それを不思議そうな表情でヒヅキは見つめる。
「握手だよ、握手。流石にこれぐらいは知っているだろう?」
ヒヅキは一度エインと差し出された手を見て、その手を掴んだ。
エインは力強くその手を握り返すと、よく通る綺麗な声で言葉を紡ぐ。
「よろしく。先ほどまでの活躍はここから見ていた。君のような人物が助力してくれる事を感謝する」
「私はヒヅキと申します。こちらこそよろしくお願いします」
「ヒヅキか、良き名だ。ではヒヅキ君よ、早速で悪いが、反対側の防衛に就いてはくれないか? 先ほどの君のおかげでこちらは少しは楽になったのでな。説明役としてこいつを同行させる」
そう言って少し手を上げると、後方に控えていた男性を親指で指す。
「君に比べれば大した事のない実力だが、口だけは達者だから、説明役にはうってつけだろう」
エインの説明に、男性は頭を下げる。
「では、よろしく頼みます。ヒヅキ殿」