幕引きと幕開け18
ヒヅキとフォルトゥナを取り込んだ人型の光は、一瞬強く光を発する。その光が収まると、そこには黒髪のエルフが立っていた。
そのエルフは、眠たげな眼で周囲を見回す。ヒヅキとフォルトゥナを混ぜ合わせたような見た目のそのエルフだが、実際その通りなのだろう。
身体の動きを確認を確認したそのエルフは満足げにひとつ頷くと、その場に残っている女性とクロス、それと人造神へとそれぞれに顔を向ける。
「あれから大分時が過ぎたというのに、これも奇縁というやつなのだろうか」
馴染みのある顔ぶれを見て、エルフはため息でもつくようにそう言葉を零す。
「本当に、彼には悪い事をした。私が聡明であったならば、こうはならなかっただろう」
何時までも爆心地に居てもしょうがないと、エルフは暗澹たる想いを抱きながらも、魔砲によって出来た窪みの外へと向かって歩きだす。
そのエルフの正体は、無論復活した神である。だが、神は人が思い描くほど全知全能の存在ではない。あまり多くはないとはいえ、神だって失敗もする。
その失敗を思い出し、エルフは小さく息を吐き出す。
遥か昔、現在エルフの見た目をしている神は、単独では世界の管理は難しいと判断し、世界を管理する為に複数の神を創造した。
新たな神を創造した事で力を消耗したその神は、後事を創造した神達に託して眠りについた。だが、それが失敗だったのだろう。
(まさか協力して管理しないとは)
神が世界を管理する為に創造した新たな神は三柱の神であった。そこから亜神とも呼べる存在が生まれたりしたが、三柱の神は仲が良いとは言えず、毎日のようにいがみ合っていた。
それでも何とか世界の管理は出来ていたようだが、神が三柱に増えたというのに、いがみ合っていたせいで眠りについた神ほど上手く管理が出来ていなかった。
そんな治世でも長く続いたが、その間に文明は幾度も滅びてしまう。しかも、三柱の神が毎日いがみ合うせいで騒々しく、神の眠りが予定よりも大分早く醒めてしまった。
目が醒めた事で、単身で管理していた時よりも悪化している状況を知った神だが、それでも最初はどうにか穏便に済ませようと、力の一部を人の姿に変えて間接的に介入してみたが、多少の成果はあっても上手く解決はしなかった。
それからも何度か策を講じたものの、力の回復が中途半端だったせいでどれも多少の成果が精々だった。
神は諦めて再度眠りにつこうかと考えもしたが、煩すぎて眠りが浅い。かといって、解決しようにも力が足りずどうしようもない。言って聞かせたとしても、一時的でしかなかった。
どうしたものかと悩む日々。そんな日々を送った影響で、苛立ちが募ってしまった。
そして、気づいた時には大半の力を失っていた。その代り、晴れやかな心になっていたが、直ぐに状況を理解する事が出来た。
(まさか募った苛立ちが悪意となって自我を持ち、力を奪って独立するとはな)
それはまるで予想もしていなかった事態で、流石は神と驚くべきか、それとも神なのにその程度も予測出来ないのかと嘆きべきか。
とにかく、悪意が独自に動き出した結果、三柱の神を平らげて新たな時代が到来する事になった。
思い返してみても、やはり自身の不甲斐なさに呆れるしかない。そうエルフは考える。もっとも、自身の不甲斐なさを嘆いたところで何も変わらないのだが。
(結局その負債を世界に払わせ、最終的に彼に押しつける形になってしまった)
考えてみると、ヒヅキという存在は異質過ぎた。力の大部分を失っていたといっても神の力を宿し、他にも複数の英雄の力を内包していたなど、破綻しない方がおかしいはず。
だというのに、ヒヅキは結局最後まで器が崩壊しなかった。それは本来あり得ない存在であった。
(つまり彼は、負債の返済の為だけに世界に創られた存在、という可能性もあるのか……)
そう考えれば理解は出来るが、もし本当にそうであれば、あまりにも虚しい存在に思えてくる。
自分には何も無い。ヒヅキが心の奥底で常に抱いていたその感情は、もしかしたら両親や故郷を失ったからではなく、実はそこに起因するのかもしれない。
それに気づいたエルフは、なんともやるせない気持ちになってしまった。




