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幕引きと幕開け14

「と言っても、さっき言ったように私には昔の記憶が無いので、話せる内容はそう多くはないのだが」

 そう前置くと、ヒヅキが理解したのを確認してから人造神は続きを話す。

「私が覚えている最初の記憶は何処かの部屋、いや檻の中だった。後に知ったが、そこは研究施設内で実験動物を飼育・観察している場所だったようだが、まぁそれはどうでもいい話だ。その時私は、自分が誰で何なのか全く覚えていなかった。それだけに状況だって分からない。こちらを観察する者達が檻の外に居たが、その目を見てここが何処で私が誰なのか尋ねる気にはなれなかった。知ってるかい? 研究対象を見る研究者の眼は恐ろしく冷たいだけではなく、狂気の光も宿している事を。しかも、こちらの一挙手一投足をつぶさに見られ、少し身じろぎするだけでも圧迫感を感じるほどに注目されるんだよ」

 当時を思い出したのか、そこで人造神は疲れたように「はは」と小さく笑う。その空虚なまでの乾いた笑い声だけで、ヒヅキは人造神のその時の心情が少しだけ理解出来たような気がした。

「私はその檻の中で手足や首に枷を嵌められて動けなかった。しかし、研究者達はこちらの事など気にしていないのか、研究者達の会話を耳にするだけで情報は簡単に集まってくれた。私の檻の前でペラペラとそれはそれは楽しそうに話していたからね。檻の内外の声が聞こえるようになっているのを忘れているのではないかと思ったぐらいだ。まぁ、それは私が元々知っていた情報なのか、それとも逃げられないから聞かれても問題ないと思っていたのだろうが。……もしくは言語を解さないただの実験動物だとでも思っていたのかもしれないね。とにかくそれで分かった事は、私が元々人であった事、しかし今では別の何かに変わった事、実験の成功例は私だけらしい事、想定よりも上手くいっていない事なんかだった。どうやら私は、人から別の存在に変わった過程で記憶を消失したらしい。それと失敗作は処分したとか。君がここに来る前に通った死体だらけの処分場、あれは全て失敗作という訳さ」

 人造神の言葉に、ヒヅキは大きな杯に炎が灯っていた場所を思い出す。確かにあの場所には大量の死体が積み重なっていたので、あの場所が失敗作の処分場なのだろう。しかし、あれはただ焼却処分していただけではなかったように思えた。もっとも、では何をしていたのかと問われても何も分からなかったが。

「そんな中での私は唯一の成功例らしい。元々何処かの村人だった私を攫って実験体にしたようなので、何が成功する鍵だったのかは分からなかったようだ。その後も私は、投薬とよく分からない術式を埋め込まれる日々を過ごした。いくら何かの実験に成功したといっても、それにより日々衰弱しているのが自分でも分かった。そんなある日、私の前に実験の責任者だと名乗る男が現れた。見ればその顔は狂気に染まっていた。あれが多分、追い詰められた者の顔というやつなのかもしれない。私はそれを混濁する意識の中でぼんやりと眺めていたが、男が私に何かを投与した瞬間、私の中に散らばっていた力が全て噛み合ったかのような感じがした。気づけば男は石になっていたし、私を戒めていた枷も吹き飛んでいた。妙な気分だった。全能感と共に強烈な嫌悪感が全身を駆け巡るような、名状し難い気味の悪さ。それを振り払おうと私は暴れたが、落ち着いても完全にはそれは消えなかった。ただ、落ち着いた事で今まで感じていた憂さを思い出し、再度暴れたが。もっとも、それでも神は出張ってこなかった。世界が滅亡の危機だったというのに」

 そこでふと思い出したように人造神は今代の神の方へと顔を向ける。そこには変わらず毒々しい色の何かが存在しているが、それだけだ。

 数秒ほどそうして顔を向けていた人造神だったが、ヒヅキの方に顔の向きを戻すと、話を再開する。

「最終的に私は、望まぬ力を発散させる為に神を探し出して挑んだ。その時、神と対峙して思ったのだ、何故この神は助けなかったのかと。神を造るなどという人には過ぎた望みを何故阻止しなかったのかと。結局、こうして私は存在する。あの神は、人造神を許容したという訳だ。数多の犠牲や過ぎたる野望など、この神にとっては何の価値も興味も無い事だったのだろう。そう思うと、どうしようもなく虚しかった。そこに転がっている神は自分勝手だが、それでも世界の発展を一定の水準までしか許さなかった。だが、あの時私が対峙した神は違う。あれは、何もかもを許容した。いた、単に興味が無かったのだろう。対峙して尚、あの神は私を見ていなかったのだから。結局私は何も出来ずに敗けた。強さの次元が違っていた。何が人造神だと、あの愚かな研究者達を嗤ったほどに。そして私は消滅する、はずだった。だが、消滅しきれなかった。理由は不明だが、私は残ってしまった。まぁ、その間は意識が無かったから記憶はないが。気がついた時には、神はあそこに転がっているのになっていて、力も根こそぎ奪われていたがね」

 そこで再度「はは」と今度は自嘲気味に笑うと、人造神は一息ついた。

「さて、そういう訳だ。記憶はないが理解は出来る。あの神の一部とそこの神が混ざっている事が。だからこそ、先程の話に戻る。あれをどうするかは君次第。一応言っておくが、復活しても私が話した神とは多分性格は異なっているだろう。長い事人の世を近くで見てきただろうからね。それも悪意の無い状態で。もっとも、神が不在の世界というのも悪くはないのだがね」

 それだけ言うと、人造神はもう語る事は無いと告げるように口を閉ざしてしまった。

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