幕引きと幕開け12
勢いが止まったと言っても、半球状の光の塊が消えた訳ではない。
それに膨脹が止まったとはいえ、魔砲は強大な攻撃だけに接している結界は直ぐに消滅する。触れていなくとも、近い場所に在る結界は余波だけで時間と共に消滅していった。
結界の消滅が収まったのは、光の塊から1メートルほど離れた地点であった。それでも人造神が構築した結界だからこそ、そこで保てているだけで、普通であればそこでも抑えられなかっただろう。
それから更に数分ほど待っても、光の塊は消えない。しかし、少しだが縮んだような気がしたので、後は待つだけだろう。
(それにしても威力が大きい。それに反して範囲がそこまで拡がらなかったのは、人造神の結界を破るのにそれだけ力を消耗していたという事なのだろうか? そのおかげで広範囲が消えずに済んだと。まぁ、攻撃の威力の方は変わっていないだろうから問題ないが)
未だに残っている光の塊を眺めながら、ヒヅキはそう分析する。それと共に、攻撃対象である今代の神の状態が気になった。
(消滅はしないらしいが、無事に斃せはしているのだろうか?)
気になって人造神の方に視線を動かすも、相変わらず人造神は黒髪に覆われた姿をしているので、どんな表情をしているのかさえ分からなかった。
気配を探ってみても、魔砲の威力が強すぎて光の塊内は魔砲の存在で全て塗りつぶされていて何も感知出来ない。
困ったものだが、とりあえず光の塊が消えるのを待つしかない。徐々にではあるが、光の塊の大きさが縮んでいるのは確かなのだから。
その間、警戒しつつもヒヅキは休憩する。全力で魔砲を放ったので、未だに頭痛がしていた。魔力の方はまだ問題ないが、それでも半分は割り込んでいるだろう。
水筒に入っていた魔力水を飲んだ後、ヒヅキは疲れたように小さく息を吐く。周囲を見ればまだ全員が警戒しているようなので、今の内にとヒヅキは空になった水筒に手早く魔力水を補充する。
魔力水の補充が終わると、ヒヅキは背嚢から小さな果実を取り出してそれを食べた。そのおかげか、少ししたら大分頭痛も収まってきた。魔力水を飲んだので、魔力の方は問題ない。
そうして休憩をしていても、今代の神からは攻撃も何も無い。光の塊も大分小さくなったが、それでもまだ家1軒分ぐらいは余裕で覆える大きさだ。
それから更に時間が経ち、ヒヅキの頭痛もすっかり治まった頃、光の塊は1部屋分ほどの大きさにまで縮んでいた。そろそろ今代の神が出てくるだろう。
そう思って光の塊を注視していると、早い段階から光の端に見えてきたのは、見ているだけで気分が悪くなりそうな毒々しい色をした何か。
「あれは何でしょうか?」
ヒヅキが思わず近くに居た人造神に問い掛けると、人造神は少し考えてから答える。
「神の成れの果て。あれから先は消せないが、これで神の討伐は完了したと言える」
「あれが今代の神?」
「そう。ああなると世界を害する毒でしかないが、とりあえずは動く事はない」
「世界を害する毒ですか?」
「あのまま放っておくと、世界を毒で侵して壊してしまう。動かないが、動かずに世界を壊す」
「大丈夫なんですか? それ」
「大丈夫ではない。しかし、あれの隔離はこちらでする。時期にここは崩壊して元の世界と統合されるから、世界の一部は封鎖されるけれど」
「そうなのですか」
「そして、私ではあれの隔離だけで一杯一杯。なので、これから先の世界には神は不在となる。おめでとう、君達はこれで神の支配を脱した。後は世界に生きる者達の力によって世界を管理するといい」
淡々とした口調でそう告げられるが、元の世界に果たして生き物が存在しているのかどうか。
ヒヅキのその考えを理解したのか、人造神は少し考えて口を開く。
「魂に関しては戻しておく。全てが元には戻らないが、繁栄出来る可能性が残るぐらいには戻せるようにしておく」
「それは、ありがとうございます」
「いい。神の居ない世界は大変だから、これから苦労するだろうからこれぐらいはしないと。ああ、スキアは消しておくよ。……それと」
人造神はそこで口を閉ざすと、考えるように間を空ける。その間ずっとヒヅキを見ていたような気がしたが、黒髪の向こう側なので実際はどうなのか分からない。
「一応可能性として提示しておくけれど、あの成れの果てを隔離ではなく排除する方法は存在する」
「それは?」
ヒヅキが続きを促すと、人造神はちょっと困ったような声音で続きを告げた。
「君の命を代価として、あれを本来あるべきところに還す方法」




