神域への道150
ヒヅキ達が休憩してしばらく経った頃、英雄達が調べている転移魔法陣が光を放ち、女性とクロスが戻ってきた。
「おや、無事に合流出来たのですね」
戻ってきた女性は、ヒヅキ達を確認したところでそう口にしながらヒヅキ達の方へと移動する。
「はい。少し前になんとか」
「そうでしたか。それはよかった。お待たせしたようで申し訳ありませんね」
「いえ。それで、向こう側はどんな場所だったのですか?」
軽く言葉を交わしたところで、ヒヅキは気になっていた事を女性に尋ねる。それに女性は、英雄達にも聞こえるように少し大きめの声で答えた。
「転移魔法陣の転移先は、岩と岩山が在るだけの場所でしたね。広さはかなりありますが、在るのは岩と岩山のみ。森や川などは存在せず、生き物も居ませんでした。ただし」
そこで一旦言葉を切った女性は、一拍置いてから静かにそれを告げる。
「転移先には今代の神が居ました」
女性が告げたその事実に、場の空気が張り詰めたのが分かった。それと共に闘志と言えばいいのか、熱気が一気に増したのをヒヅキは肌で感じる。それにヒヅキ自身も、とうとう辿り着いたかという思いであった。
「当然ですが、今代の神はこちらの存在に気づいています。そのうえで待っている状態ですね。私達の向こうでの調査も邪魔してきませんでしたし」
それは傲慢な態度とも言えるが、実際今代の神はかなり強いようなので、負けるとは微塵も考えていないのだろう。きっと、今はどうやって遊ぼうかと考えているに違いない。
「なので、こちらはこちらで万全の状態で挑むとします。調査に向かった私達は少し休みますので、その間に各自準備をしっかりとしていてください」
途中からヒヅキ相手ではなく全員に対してそう告げた女性の言葉に、英雄達は短く了承の言葉を口にする。その言葉にもかなりの熱気が籠っていた。
英雄達のそんな様子を確認した女性は、満足そうに頷いた後にヒヅキの隣に腰掛ける。
「それで、ヒヅキの準備はどうですか?」
微笑みながら柔らかな声音でそう問うてきた女性だが、その目は僅かだが鋭い光を湛えていた。
「残念ながら万全とはまだ言えませんが、それでも大分形にはなっているかと」
「そうですか。であれば大丈夫でしょう」
女性は満足げに頷くと、目の光も柔らかくなる。
「それで、今代の神とはどんな存在でしたか?」
「そうですね、見た目は以前遭ったような子供と大人の境のような人でしたね。もっとも、あれも本来の姿ではないでしょうが」
「そうなのですか?」
「ええ。そもそも神に決まった形はありませんから、人でも獣でも魚でも何にでもなれます。それこそ、存在しない存在にだってなれるのですから」
「存在しない存在ですか?」
「空想の存在ですね。既存の存在とは違った存在です。神に必要なのは想像力だけですから」
「そうなのですか?」
「ええ。神は力ある存在。つまりは実行したり実現させる力は持っているというのは前提条件です。後はどういったモノを実現させ、どういったモノを創造するかだけです。それさえあれば、後は好きなように出来るのですから」
「なるほど」
「なので、姿形も思うがままに変えられるのです。もっとも、唯一の弱点というか、変える事が出来ない事がひとつだけ存在しますが」
「それは?」
「存在しているという事です」
「?」
「神は神として存在しています。それはいくら神でも変える事が出来ないという事です」
「えっと……」
女性の説明に、ヒヅキはどういう意味かと考える。少しして、ヒヅキは答え合わせのように自身の出した答えを口にした。
「つまり、斃せるという事ですか?」
「ええ、そうです。存在している以上、理論上は斃す事が可能という事です。まぁそれが難しいのですが」
そう言うと、女性はお道化るように肩を竦める。しかしその声音には、実際はどうあれ、神を斃す方法を知っているのだろうとヒヅキに思わせるだけの自信があるように思えた。




