神域への道148
休憩を終えて石造りの通路を進む事しばらく、終わりの見えない長い通路を進んでいると、先頭を進ませている光球の明かりが通路の途中に在った扉を照らし出す。
『こんなところに扉……?』
怪しさ満点の扉ではあるが、ここが避難所への避難経路だった場合、ここは何処かの集落にでも繋がっているのだろう。
扉が在った場所が終点ではないようで、道に関してはまだ続いているようだ。
ヒヅキは一瞬迷うも、まずは扉を調べてみる事にする。
その扉は、土壁に扉の絵を描いただけのような奇妙な扉だった。その絵を立体的に掘り起こしたような扉が、石造りの壁に埋め込むように取り付けられている。
扉やその周囲を調べてみるも、何かが仕掛けられているという様子は無い。フォルトゥナが慎重に扉を開けてみると、奥の方にヒヅキ達より大きな杯のようなモノが鎮座していて、その杯の中が燃えていた。
その部屋は結構広いようで、炎に照らされて薄暗いながらも部屋の様子が見える。
『これは……』
部屋の中に入ったヒヅキは、その部屋の様子に言葉を詰まらせる。なにせその部屋には山が出来ていたのだから。死体の山が。
入り口から奥の方まで真っ直ぐ伸びた道のような床以外には足の踏み場が無いほどに死体であふれ返っている。
ヒヅキは足下や周辺の死体に目を向けるも、まともな死に方をしているのが見当たらない。顔が完全に潰れていたり、身体中の皮膚が裂けていたり、四肢の何処かが欠損していたり、血を全て抜かれたような死体もある。その部屋はまるで、拷問でも受けた後の死体処理場とでも言うべきかもしれない。
それからヒヅキが奥の方の杯に視線を向けてみると、その縁にまる焦げの手や脚らしきものが覗いているのが目に入った。
『ここは何の部屋だったのだろうか?』
周囲と奥の炎に視線を向けたヒヅキがそう問うと、部屋を調べていたフォルトゥナは考えるように部屋の中を見回す。
『死体を焼却処分していたのでしょう。しかし、ただ処分する為だけに焼いていたにしては、あの炎はどうなのでしょう? もう少し効率のいい焼き場が用意出来そうですが。あれではまるで、何かの儀式をしているようではありませんか?』
フォルトゥナのその言葉に、ヒヅキは奥の杯の方に近寄ってみる。
そこにはヒヅキの背丈よりも高く、大樹のように太い脚に支えられた杯が置かれている。その杯の中で燃える炎は、時折青白く変化しては勢いよく燃えていた。
杯の縁から垂れる細長い炭のようなものは、やはり中に放り込まれた者の手や脚なのだろう。
杯の周囲を見回してみると、その杯の周囲だけ何も無い。後ろでは死体が山となっているし、背の高い杯にその死体を放り込むにも足場が必要だろうに。
ヒヅキは首を捻りながらも杯の方へともう少し近づいてみる。そして杯の脚まで後3メートルほどというところで、足下に淡く光る円陣が浮かび上がった。
『これは魔法陣? ……それも転移魔法陣かな?』
慣れた様子でそれが何の魔法陣かだけ即座に読み取ったヒヅキは、少しだけ何故こんなものがと首を傾げたが、直ぐにここが次への道なのではないかと思い至る。
『この転移魔法陣の行き先が分かればいいのだが』
ヒヅキが読み取れた範囲は、一方通行の転移魔法陣だという事だけ。行き先の座標も読み取れたが、ヒヅキは現在の座標すら分かっていないのでそれに意味はない。
一応転移魔法陣としては基本的な形のようで、あまり複雑ではないのは助かっているが。
後はこの転移魔法陣を使用するかどうかだ。一方通行なので、転移したら戻っては来れない。
『まだ石造りの通路は続いていたけれど、どうしようか?』
ヒヅキは横に来たフォルトゥナにそう問い掛ける。ヒヅキはなんとなくこれが先へと進む道なのだろうと思うのだが、それに確証はない。
フォルトゥナはその転移魔法陣をしばらく眺めた後、部屋の中を見回していく。
『ここはそこまで調べるモノも無いので、このまま先に進んでも問題ないかと。通路の先にも何か在るかもしれませんが、もしかしたら何も無いかもしれません。私はヒヅキ様の判断に従います』
『そう。それなら、この転移魔法陣で転移してみようか』
『はい』
頷いたフォルトゥナと共に、ヒヅキは転移魔法陣の上に乗る。
それから1度杯を見上げた後、ヒヅキは魔力を流して転移魔法陣を起動させた。




