神域への道144
ヒヅキは遠話を使用してフォルトゥナと話をした後、念の為に井戸の上から足下に在った石を幾つか拾って落としていく。
『石を確認しました』
落下していく石をフォルトゥナが確認した事で、やはり倉庫の出入り口は井戸の中に繋がっていたのだと確認出来た。
『縄を登りましょうか?』
それについて確実性を高める為にフォルトゥナがそう提案する。
『その場合は入り口はどうなるんだろう? 避難所の扉を開ければ連動してそちらは閉じるのだろうか? それとも開かなくなるのかな?』
どうなんだろうかとヒヅキは疑問に思う。それと共に、そういえば扉についてはまだろくに調べていなかったなと思い出した。
『不明ですが、開いたまま閉じない場合はまたこちらから入ればいいのでは?』
『それもそうだね。じゃあお願い出来るかな?』
『御任せ下さい!』
元気よくそう言うと、フォルトゥナは倉庫の入り口から飛び出して目の前の縄に飛びつく。
フォルトゥナが縄を掴むと、ギシィと軋むような音が縄からするが、それだけで切れる事はなかった。
縄が結ばれている木組みの方は、フォルトゥナが縄に飛びついても軋む事すらしない。
そのままフォルトゥナは縄を登っていく。見た目は古そうな縄だが、やはり触れてみると見た目と違うのが分かる。おそらく新品の縄よりも丈夫なのではないかと、フォルトゥナは登りながら思った。
それから程なくしてフォルトゥナは縄を登り終えると、上で待っていたヒヅキの手を借りて井戸の外に出る。
『やはりここの井戸の中が倉庫なのは間違いないようだね』
『はい』
倉庫に居たはずのフォルトゥナが井戸の中から縄を登って外に出てきたので、それは間違いないだろう。
『それじゃあ次は、避難所の中から倉庫に入れるかどうか確認しようか』
そう言うと、ヒヅキはさっさと避難所に向かう。
廊下の突き当りに到着した後、ヒヅキは閉まっていたそこの壁を開ける。
問題なく壁に偽装した扉が開くと、その先は変わらず倉庫のままだった。
そのまま二人が倉庫の中に入った後に扉を閉めると、そこは密室となる。フォルトゥナが開けっぱなしのまま井戸の外に出たが、ちゃんと扉は閉まっていた。
ヒヅキが扉を開けてみると、そこは井戸の中。条件は不明だが、どうやら扉は自動で閉まるらしい。それか扉同士が繋がっていても、扉自体は独立しているのか。
扉を閉めた後にもう1度開けると、問題なく避難所の中に戻っていた。
それから二人が扉を調べてみると、どうやらこの扉は任意でも扉の先を避難所と井戸の中に変更出来るようだった。
『これは空間を繋げているという事なのかな? 転移とは少し違うようだし』
『その通りだと存じます』
難しい魔法ではないとまでは言えないが、それでも転移魔法が使えるようになった今のヒヅキであれば、それを行使する事は可能そうだった。
『これ、もしかしたら転移よりも便利かも? 魔力消費量次第ではあるけれど』
避難所を繋げて倉庫としていただけに、その魔法を修得出来れば、今後は移動を個人から集団にする事が出来るだろう。
もっとも、転移魔法が移動距離と移動させる対象の質量で消費する魔力量が変わるように、この2点間の距離を無視して繋げるような魔法も同様の条件があるかもしれない。
少なくとも、個人で使用する転移魔法の魔力消費量はかなり多い。ヒヅキでは実用性では短距離転移が精々で、無理をすれば中距離ならいけるだろう。いや、もしかしたら今のヒヅキであれば長距離もいけるかもしれないが。
腕輪の方に刻まれている転移魔法を使用すれば、ヒヅキでもそこまで無理せずに長距離はいける。それでも結構な魔力を持っていかれるので、そうホイホイと使用は出来ない。最近は転移魔法陣が珍しくもないのでつい忘れそうになるが。
ヒヅキは扉に組み込まれている魔法を読み取ると、それを自分向けに組み直していく。
『とはいえ、どうやらこれは周囲や地面から魔力を汲み上げて使用しているようだから、かなり魔力消費量が多そうだね』
そんな推測を口にしつつ、ヒヅキは空間を繋げる魔法を修得する。後はこれを実際に使用してどんなものか確かめるだけであった。




