神域への道143
『そうなると、脱出口ではなく侵入する為の場所だったのだろうね』
『侵入する為ですか?』
『そう。まず救いのある可能性としては、逃げ遅れた者が閉じられた避難所に入れるように。でも他の可能性としては、閉じ込めた獲物を狩れるように』
『避難者が獲物ですか。……という事は、避難する原因となった何かがこの避難所を用意したという事でしょうか? しかしそんな得体の知れない場所を利用するでしょうか?』
ヒヅキの考えに、フォルトゥナはそう上手くいくだろうかと疑問を呈する。
『まぁ、元々在った避難所に後付けしたという可能性もあるけれど、その狩る側が表向き信用されている者だった場合は?』
『それであれば避難所は利用されるでしょうが、そんなに頻繁には難しいのでは?』
『そうだね。でも周辺の町村の者を一手に収容するのであれば、それは1度だけで十分なのだろう』
『周辺の者達を皆殺しですか? その後は場所を移すとしましても、信用はそう簡単には積み重ならないでしょうね』
『いや、おそらくそうじゃないだろうね』
『どういう事でしょうか?』
『あくまで推測だけれども、あの建物は神殿だったのではないだろうか? スキアが溢れた世界での避難場所としての神殿。そして、ここに居たのは以前女性達が話していた魂を回収するスキアだったのだろう』
『なるほど。確かにそれであれば1度で十分ですし、それどころか何度でも使用出来るでしょう』
『ああ。なにせ相手は神だからね。神託とか言っておけば何度でも人は集まるだろう』
実際、今までそうしてきたのだろう。今回は避難者が少ない場所が在ったようだが、それでも結構な数の魂を回収したであろう事は容易に想像がついた。
『それにしても、1度ぐらいは確認しておきたいと思っていたが、まさかこんな形で確認出来るとはね』
あくまでも、見つけた避難所が神殿というのはヒヅキの推測でしかないが、その可能性は高い気がした。
それからフォルトゥナと少し話したところで、ヒヅキは井戸の縄について思い出す。それと共に縄の強度を確かめるのであれば、1度避難所に戻って、そこから外に出てから井戸を確かめる方がいいだろうと思い至る。そうすれば、木組みの方も確認出来るのだから。
そうと決まれば、倉庫も調べ終わったので、一端建物の方に戻る。
そこから外に出た後、ヒヅキ達は入り口近くに在った井戸を確かめていく。
『結構しっかりしているね』
『はい。見た目と実際の品質が違うように感じます』
井戸の上の木組みとそこから伸びている縄を調べると、思いの外しっかりとしているようで、これであれば人が縄を使って上り下りしても問題ないだろうと思えた。
ついでに縄を引き上げてみようとしたが、そちらはビクともしなかった。どうやら本当に下で固定されているらしい。
それから井戸を覗き込んでみるも、倉庫への道のような場所は確認出来ない。途中から真っ暗なので、その途中に在るのか、それともこちらも隠し扉なのか。
どうしようかと思ったが、フォルトゥナが一旦避難所に戻って倉庫に移動するというので、ヒヅキは井戸の傍で待つ事にした。
フォルトゥナが避難所に入って程なくして、井戸の下からフォルトゥナの声が聞こえてくる。
どうやらあの倉庫はこの井戸の中で間違いないようだったが、覗いてみても井戸側の入り口は暗闇の中に在るようだった。




