神域への道141
考えるのは、まずはじめに現在の部屋について。
入り口近くに魔力を通すだけで水が出る水瓶が並び、部屋には上に載せた物の時の流れを多少緩やかにして、そして凍らない程度に冷やすという効果が付加された棚が並ぶ。
それは鮮度を維持する為の棚とも言えるので、かつてはその棚には食料が並べられていたのだろう。もしかしたらもう少し詳しく部屋を調べれば、部屋の温度を管理する魔法道具も仕込まれているのかもしれない。
そうなると、ここは食糧庫だったのだろうと容易に推測出来る。そして食糧庫が在ったという事と、無駄に広いだけの建物内とを併せて考えれば、ここはおそらく避難所だったのではないかというところまで推測出来る。
では、何に対する避難所だったのかというのは、流石に分からない。自然災害に対するものかもしれないし、別の何かに対してだったかもしれない。
(そして、結構な人数を収納出来るだろう事を考えれば、ここは周辺の町村全ての者達の避難場所だったのだろう。そうなると、この近くに人里が在ったという事になる。という事は、ここら一帯はここまで広大な森ではなかったのか? それとも森の中で暮らしている者達の避難場所だったのだろうか?)
そこまでは分からないなと思うも、ここが避難場所だったというのはおそらく間違いではないだろう。
(ここの全容次第だが、もしも食糧庫がここだけだったのならば、ここは短期の避難を想定していたのだろうか?)
ふとその考えが浮かぶと、もしかしたら何か強大な存在が通り過ぎる間の短期的な避難所だったのかもしれないとヒヅキは考えた。
それから食糧庫全体を調べてみると、やはりというか、空調を管理する魔法道具が部屋の四隅の天井付近に設置されていた。
食糧庫を調べ終えて戻ると、更に下へと進む。
次の階では調理場のような場所を見つけた。その調理場の竈は魔法道具で、火を一切起こさずとも熱を発するように出来ていた。他にも食糧庫に在ったのと同じ水瓶も幾つか設置されている。
そして、その更に下の階でまた食糧庫を見つける。設備は全く同じだったので、ここも食糧庫で間違いないだろう。
その下はただ広いだけの空間が続く。結局、地下は10階まで続いていた。
全容を把握出来たところで、その広さと食糧庫の広さを考え、やはり短期的な避難所だったのだろうかとヒヅキは考えた。
そのまま1階まで戻った後、ヒヅキはなんとなく1階を見回す。
『結局、明かりはここだけだったね』
『はい。似たような照明道具も設置されていなかったので、明かりに関しては別に用意されていたか、そもそも明かりをあまり必要としない者達だったのかもしれません』
『なるほど。ここの明かりも薄暗いからね。外の明かりから暗闇へと段階的に慣らす為と言われても納得しそうだ』
ヒヅキはフォルトゥナとそんな会話をしながら、少し気になったので廊下の終わりを調べてみる。
『……おや、ここは部屋になっていたようだね』
廊下の突き当たりは一見するとただの壁なのだが、しかし手を当てて動かしてみれば、そのまま横に動くようになっていた。
どれだけ見ても壁に取っ手のような場所は無く、そしてその壁は感知を掻い潜る石と同じモノだったので、ヒヅキも最初は気づかなかったようだ。
その壁の向こう側は、外観からはおよそ考えられないほどに広い部屋で、ここにも棚が並んでいたが、調べてみれば食糧庫の棚とは違ってただの棚であった。
『ここは何の部屋だったのだろうか? ただの物置部屋かな?』
『……おそらくですが、地下には食糧庫と調理場しかなかったので、ここにはそれ以外の道具が置かれていたのではないかと』
『なるほど。そして、この広さはなんだろうか? どう見てもこの部屋だけで外から見た建物よりも広いのだが』
『空間を拡げているか、別の場所の保管庫と繋がっているかではないかと』
『ふむ。なるほど』
ヒヅキ達はそんな会話を交わしつつ、部屋の中を調べていく。
その過程でヒヅキが部屋の中から入ってきた扉を閉めて再度開けてみたところ、そこには縦穴が出現した。
『おや、これは何処だろうか?』
目の前には広い縦穴と、上から伸びる1本の縄。下を見れば暗闇が澱のように溜まっており、上を見れば木組みに縄が結ばれており、青空が丸く切り取られていた。
『んー、井戸の中?』
そう思ったところで、そう言えばあの建物の傍に井戸が在ったなとヒヅキは思い出した。
それからもう1度扉を閉めて開けると、今度は見覚えのある廊下に戻る。
顔を出して戻った事を確認した後、頭を引っ込めて再度扉を閉めて開けると、扉の先はまた井戸の中だった。




