神域への道136
フォルトゥナが操作盤を弄り、直径2メートルほどの円が出現する。それが転移魔法陣なのは直ぐに読み取れたが、ただそれが本当に外に通じているかどうかまでは不明。
(とはいえ、他に道は無いからな)
それも転移すれば分かるかとヒヅキは開き直る。このままではこの研究施設から出る事が出来なさそうなのだから。
転移魔法陣は直径2メートルほどあるので、ヒヅキとフォルトゥナが二人一緒に乗っても問題はない。フォルトゥナとしてはまずは安全性を確かめたいようだったが、一方通行の転移魔法陣だからという理由でヒヅキに却下された。
譲る気の無いヒヅキの様子に、こうなったらしょうがないとフォルトゥナも諦めた。
二人が転移魔法陣の上に乗ると、ヒヅキは転移魔法陣に魔力を流して起動させる。この転移魔法陣は放置していたら数分で勝手に消えるので、さっさと起動させなければやり直しであった。
転移魔法陣が淡く光り起動する。それでヒヅキ達は直ぐに転移した。
視界が一瞬で切り替わるのも慣れたもので、ヒヅキは転移による変化に対して全く反応せず、直ぐさま警戒しながら周囲の様子を窺う。
『ここは……何処だ?』
周囲を見回したヒヅキは困惑げに呟く。
そこは森の中だった。しかし、同じ木ばかりの森ではないようで、同種らしい木でも木によって形が違う。それに研究施設の前に居た森と違い、別の種類の木も確認出来た。
頭上に視線を向けると、林冠から優しい光が漏れてきている。そのおかげで森の中は明るい。どうやらここは晴れらしい。太陽を確認出来た訳ではないが、ヒヅキはそう思った。
木々の間隔も広いので、遠くまで森の中が見渡せる。しかし、視界に映るのは木ばかり。
『ここにも動物は居ないのだな』
何かが存在している気配が全くしない静まり返った森の様子に、ヒヅキは少し残念そうにそう零した。
そのまま足下に視線を向ける。現在居る場所は、あの転移魔法陣と同じぐらいの広さだけ地面が平らな木に囲まれた場所。そこは開けた場所というよりも、そこだけ整地したといった方が正しいだろう。
転移魔法陣は既にない。軽く足で地面をこすってみたが、固い土なのかろくに削れなかった。
さてこれからどうするか、まずはそこから決めなければならない。周囲を見回してみても、何処までも木しか存在していない。
『上に出れば何か分かるだろうか?』
かつてエルフの国でしたように、木を登って頂上から周囲を見回せば何か分かるだろうかとヒヅキは思うも、ここの森はどの木も見上げただけでは天辺が見えないぐらいに背丈が高いので、どれに登ればいいのか迷ってしまう。
『行ってきましょうか?』
『ん~、頼める?』
『お任せください』
少し考えたヒヅキだが、フォルトゥナの方が自分よりも多く情報を把握出来そうだと判断したヒヅキは、その役目を頼む事にした。
そうしてヒヅキが頼むと、フォルトゥナは近くの木を駆け上がっていった。
枝を伝って登るのではなく、幹をほぼ垂直に駆けあがっていくフォルトゥナに、ヒヅキは「おぉ」と小さく感嘆の声を漏らす。ヒヅキにも同じ事が出来なくはないが、フォルトゥナほど安定していない。
程なくしてフォルトゥナが見えなくなったので、ヒヅキは周囲の観察に戻る。
周囲を見回すも、やはり森の中は何処までも森の中だった。まるで世界が森に呑まれたかのような気分になるほど木しかない。
(ここはかなり広い森なのだろうか?)
ほぼ確実に知らない森だろうと思いながら、ヒヅキは少し思案してみる。
(もしもこの場所があの空間内のままだとしたら、この場所は崖向こうの森の中だろう。しかし、なんとなく空気というか雰囲気が違うような気もする。言葉にするのは難しいが、全てが終わってかなりの時間が経過したかのような静けさというか……)
何度周囲を見回してみても、危機感というかあまりそういったピリピリとした感じがない様子に、ヒヅキはどういう事だろうかと首を傾げる。
その様子はまるで、生き物が全て死に絶えた世界のような、そんな感じがした。




