神域への道134
ヒヅキは送られてきた椅子を廊下に出すと、フォルトゥナに無事に送られてきた事を遠話で伝える。
(それにしても、改めて見ると大きな椅子だな)
廊下に出した椅子は、背もたれまでの高さがヒヅキと然程変わらない。座面までの高さがヒヅキのへそ上なので、その椅子をヒヅキが使うと足が地面に着かずに、子どものように足がプラプラとさせる事になるだろう。
それほど大きな椅子を使用していたのならば、その種族の身長は少なく見積もっても優に2メートルは超えていただろう。
椅子はありふれた木製の4脚の椅子のように見えるが、細部まで確認してみればかなり丈夫に造られているのが分かる。そもそも木材からして特殊そうだった。
そして椅子の横幅も広いので、そこから推測出来る想定している使用者の大きさはかなりのもの。それを思えば、あの大きな居住区も狭いのかもしれないとヒヅキは思った。
そうして椅子を観察していると、調査を終えたフォルトゥナが戻ってくる。
フォルトゥナから報告を聞く限り、1階の転移魔法陣と同じモノだったようだ。そしてやはり、地下3階の転移魔法陣でなければ別の場所へと転移先を切り替えることは出来なかったらしい。
転移魔法陣の在った壁周辺は探索した時と変わらないようだったので、フォルトゥナはそのまま別の場所の転移魔法陣も調べに行くという。
ヒヅキとしても別段止める理由も無いので、そのまま送り出した。
フォルトゥナが転移魔法陣で転移していった後、ヒヅキはどうしようかと考える。フォルトゥナが使用した転移魔法陣を弄るのは止めておいた方がいい気もするが、実用性を考えれば、こちら側の転移魔法陣を別の転移魔法陣に替えておいても、向こう側からの転移は可能だとは思うが。
(まぁ、転移魔法陣は行き先の座標さえ分かっていれば転移できるからな)
一応起点となる部分が必要にはなるが、フォルトゥナが転移魔法陣を切り替えて調べていた時に見た限り、変わっているのは転移先だけだったように思う。
(という事は、受信側の魔法陣は別途用意されているとみた方がいいだろう。なので、行き先を変更していても問題はないはず。後は先着順で起動が成功するといった感じだろうか?)
ここの転移魔法陣は、一定以上の大きさが載っている場合は起動しないようになっているので、同時に転移魔法陣が起動しても、先に起動した方が優先されると思われた。もしくは同時起動時は階層によって優先順位が決まっているか。
なにはともあれ、実用されている以上、安全策は何重にも講じられている事だろう。惜しむらくはそれを読み解くにはヒヅキでは時間が掛かりすぎるという事だが。
それを思ったヒヅキは、転移魔法陣を読み取りながら小さく息を吐き出した。知識もだが、経験も不足しているのでそれはどうしようもない。
学び始めた時期を考えればヒヅキは十分過ぎるほどに優秀ではあるのだが、周りが出来る者ばかりなので、どうも自身が落ちこぼれなように思えてならない。
現在のヒヅキの状況は、天才だらけの中に秀才が居るようなモノで、天才が評価の基準になってしまっている以上、秀才はよくて凡人といった扱いだった。もっとも、そんな事は周囲は別に気にしていないのだが。
(光魔法を魔導に落としこむのにも随分と時間が掛かったからな。まだ調整が終わっていないから、実戦で使用するにはもう少し必要だけれども)
ヒヅキにとって不幸というか、そう思うようになった1番の原因はフォルトゥナだろう。フォルトゥナはあまりにも才能に溢れていた。
だからこそ神に選ばれたとも言えるのだが、ヒヅキにとってはそれはあまり関係ない。
困ったものだと思いながらも、ヒヅキは目の前の魔法陣に集中する。今はとにかく少しでも前に進まなければならないだろう。もうあまり時間は残されていないだろうから。




