仕事18
仕事は家に帰り着くまでが仕事だと言っていたのは誰だったか。
ヒヅキは朧気な記憶を手繰りよせながら、ケスエン砦の城門を潜り、外へと出た。
門の周りには深い堀が掘られているが、ヒヅキ達は開門と同時に降りた架け橋を渡って外の平地へと出る。
ヒヅキ達が全員橋を渡り終えると、重々しい音と共に橋が上がり、門が閉ざされた。
それを背に、ヒヅキ達はケスエン砦を後にする。
ケスエン砦周辺の平地には草木が生えているぐらいで特に何かが在るわけではない。そんな中特別目を引くのは、舗装され整った街道が砦からガーデン方面と反対側の国境側へと延びている事ぐらいか。
そもそも、ケスエン砦は堀が掘られ、そこそこ高い城壁を備えてはいるが、元々は連絡や使者、軍隊などの人員や物資などを一時的に留めるのが主な目的で築かれた、国境と王都を結ぶ中継用の砦でしかない。堀などの一応の防備が備わっているのは砦を築く際の慣習や見栄えの為でしかなかった。
そんな砦まで戦線が下がっている時点で緊急事態。それこそ、カーディニア王国存亡が掛かった事態であった。
大分離れたところでヒヅキは一度ケスエン砦へと目を向けると、その先から感じるスキアへと意識を向けた。
(動いてる!?)
昨夜確認した頃から更に数が増え、確認出来るだけでも直ぐに正確な数字を出すのが困難なほど。
概算では既に千を超えているが、それでもまだ増え続けている。流石に増える勢いは最初ほどはなかったが。
それが砦方向へ移動を開始していた。その速度はスキアにしてはかなり遅いものではあるが、そのまま進めば夕方頃には砦に到着することだろう。
ヒヅキはスキアのその移動の遅さを不信に思い、情報を得るために感知範囲はかなり拡げて、北東方面だけではなく四方に向ける。
「ッ!!」
そこでヒヅキは気づく、スキアの一団が北から砦を大きく迂回するように回って自分たちの方に向かっている事に。それもあと数分と経たずに襲ってくることだろう。
「北からスキアが来ます!」
ヒヅキの大声での警告に、人足たちは慌てながらも人足頭の指揮の下、陣形を崩さないように南へと進路を変える。
その間、ヒヅキ達護衛の四人は一度素早く北側に集まり、言葉少なに役割を確認すると距離を取って、人足たちを背に戦闘体勢をとってスキアの襲撃に備える。
その頃には、護衛全員がスキアを感知していた。
その数は三十ほど。その倍近くが砦側へ向かったところから、こちらはついでなのだろう。砦の先に居るスキアも入れた総数を考えれば少ないものだが、それにしても戦力過多なようだが。
砦側へとスキアが分かれたと同時に、北東方面でゆっくり移動していたスキアが速度を一気に上げて砦へと接近する。
(挟撃、か)
その一連の行動に、ヒヅキは内心で驚く。スキアにも戦術を用いる頭と、集団行動が出来る協調性があったのかと。
しかし、そんな驚きも一瞬で消え去る。
何故なら、目の前にスキアの群れが到着してしまったのだから。