神域への道127
とりあえずこの研究所と、転移魔法陣が在った森や荒野や海が在った空間が関連しているという事はほぼ間違いないだろう。それとあの建物の部屋も関係していそうだ。全てではないだろうが。
(そうなると、あの建物からここに至るまで一連の出来事の中心に居るのは人造神という事になるのだろうか?)
後はそれが今代の神の正体なのか、それともそれとは別の何かなのかが分かればかなり前進した事になりそうだった。もっとも、仮に今代の神の正体が人造神だったとしても、ヒヅキでは勝てる気がしないが。
(何か弱点みたいなのモノはないものか)
今代の神にしろ人造神にしろヒヅキでは遠く及ばない存在としか分かっていないので、せめてヒヅキでも勝機が見出せそうな情報はないものかと考える。
しかしそう考えると、ひとつしか思い浮かばない。
(やはりあの白い球体がそれに当てはまりそうだよな。他は研究資料とかだけれど、読めるのはあの日記のような何処か読まれる事前提に纏められたような資料だし、ここの施設は文字以前に何が何やら分からないし)
ヒヅキは困ったように苦笑を浮かべると、部屋の中を適当に歩きながら考えてみる。
(仮にあの白い球体が今代の神との戦いに勝機を見出してくれる代物だとして、もしもそうならば、それを持ってきたあの黒髪の人物は一体何者なのだろうか?)
今までの探索で最も謎な存在である黒髪の人物。今まで情報不足でそこまで深く考えないようにしていたが、粗方建物の探索を終えてみると、あの人物だけ非常に異質だったのがよく分かった。
まず動いていた事。あの人物以外の人と言えば、廊下と室内に居た石像ぐらいしか思い浮かばない。そして自立して動いていた存在と言えば、畑に植わっていた動く植物ぐらいか。
その両方に該当し、尚且つ意思のようなものも存在する。それどころか、ヒヅキではあまり聞き取れなかったが、黒髪の人物は言葉すら喋っていた。
つまりあの建物唯一の住人とも言える存在。異質どころの話ではない。あの人物であれば、もしかしたらあの建物が何なのかすら知っていたかもしれない。
(もう少し話をしたかったが)
ヒヅキはそう思うも、向こうから姿を消したのでそれは叶わなかった。言葉に関してはフォルトゥナが聞き取れたようなので、もしも話す事になっても会話は成立したかもしれないが。
とはいえ、起こらなかった事を考えてもしょうがない。今はそちらではなく黒髪の人物について考察していく。
初めて遭遇した状況から考えれば、黒髪の人物はあの文字だらけの部屋の住民だったか、それとも隣の拷問部屋の出身か、あるいはその両方かといったところだろう。
可能性としては幽霊、つまりは怨念が形を取った存在。それが本物か、はたまた部屋を模造した際にそれまで模造したのかは不明だが、とにかくその辺りが元になった存在だろう。
(しかしそうなると、動けると部屋を出られるという事になるのか。であれば、遭遇しなかっただけで同様の存在ももしかしたら存在していたのかもしれないな)
そう考えたヒヅキだが、出会えなかったら必要なかったという事なのだろうと思う事にする。
では、そんな存在がヒヅキに何の用だったのか。白い球体を渡すだけだったのならば、その白い球体は何なのか、それに白い球体は今代の神に使う物らしいが、それを何故黒髪の人物が持っていたのか、今代の神と黒髪の人物との関係も不明である。
考えてみれば分からない事尽くしではあるが、それでも何となく答えか見えてきているような気がしたヒヅキは、部屋を歩き回りながらもうしばらく考察してみるのだった。




