神域への道124
地下2階と言えばいいか、その階層は2部屋しかなかった。より正確には、透明な大きな板が広大な部屋を2つに分けていた。
階段が在る方には大小様々な機材が置かれていて、中には動いているのか、灯っている小さな光が明滅を繰り返している物も確認出来る。
反対側には何も無い。よく見れば、奥の方の壁に一定間隔で何かを留めるような鉄の輪っかが複数取り付けられている。
『ここは何だったのだろうか?』
感覚的には実験場だと思えるが、何も無い空間は使われていた形跡は無い。機材についてはヒヅキでは分からないので、そちらはフォルトゥナに任せている。
フォルトゥナが機材を調べている間、ヒヅキは何も無い方を調べてみる事にした。
(といっても、どうやって中に入るんだ?)
透明な壁が部屋を途中から分断しているが、見回してみても扉のような部分は確認出来ない。
何処かに隠し扉でもあるのだろうかと思いながら透明な壁を調べてみるが、それらしい場所は確認出来ない。透明な壁周辺の部屋の壁も調べてみたが、ただの頑丈そうな壁なだけ。
しょうがないのでヒヅキは、透明な壁の向こう側を観察してみる。
少し見ただけでは何も無い部屋ではあったが、よくよく見てみれば壁の一部が扉のようになっている気がする。もっとも、なんとなく動きそうな壁というだけで、明確に扉だという感じではないが。
(ともあれ、あれが扉だとすると、何処かに繋がっている場所があると思うのだが)
そう思うも、もしかしたら別の階層から続いているという可能性もある。機材の置いている部屋をよく見れば、機材の壁に隠れるようにして下へと続く階段も確認出来る。
とはいえ、利便性を考えれば同じ階層から行き来出来るようになっているだろうと推測するヒヅキだが、もしもこれが実験場だとしたら、実験内容次第では安全性を優先させる事になるだろう。
(そもそも本当にこの先はあるのだろうか?)
そこまで考えたところで、もしかしたら別の部屋の実験場の映像を映しているだけなのではないか、という疑惑がヒヅキの頭に浮かぶ。今までも何度も映像による仕掛けが存在したし、そのどれもが状況次第では見破るのが難しいぐらいに本物の映像だった。
であれば、この目の前の透明な板はその映像を映し出す機材なのではないか、とも思えてくる。実際、この建物に来る前の場所の壁は透明な板のようであった。一部本当にただの透明な板であったが。
「うーむ」
ヒヅキは透明な壁の前で唸る。どう見てもヒヅキが居た世界とは発展の仕方が異なるので、目の前の存在は理解の範疇に無かった。
(それでも理解出来るのだからな……)
完全ではないだろうが、後方に視線を向けたヒヅキは、なんとも形容しがたい微妙な表情を浮かべる。
しかし直ぐに思い直すと、目の前の透明な壁に集中する。とりあえず軽く叩いてみるが、やや柔軟性の在る壁といった感じ。
(壊せるだろうか?)
そう思ったヒヅキだが、思いつきで壁を破壊してもしょうがないので今は自重する。本当にただの透明な壁だとしても、最悪天井が崩れて建物自体が崩壊しかねないのだから、それは最終手段だろう。
ではどうしようかと思ったヒヅキは、透明な壁の前を行ったり来たりする。感知魔法をかなり狭めて調べているが、やはり透明な壁は透明な壁でしかない。一応壁の向こう側の空間は感知出来ているが、それを完全に信じるには場所が悪い。
(さて、今代の神は何を考えているのか)
それが今代の神の仕業と決まった訳ではないが、それ以外には考えられないのでそう仮定している。
後はその意図を読み解ければ問題ないが、そもそも意図があるのかどうか、というところから考えないといけないので何も進んでいない。
可能な限り調べたヒヅキは、しょうがいないと思いフォルトゥナの方に目を向ける。
フォルトゥナは各反応を確かめながら、何やら操作盤のようなものを弄っているようだった。




