神域への道122
『つまり、あの培養装置らしき物とここは関係があると考えていいのか』
転移には慣れたもので、ヒヅキは一瞬の意識の漂白も気にせず話の続きをする。もっとも、そうしながらも周囲へと視線を向けるのも忘れない。
ヒヅキ達が転移してきた部屋は、天井から明かりが照らしているが、あまり強い光ではないので薄明るい。それでも隣の相手の顔ぐらいは確認出来るので、ヒヅキ達にとっては十分な明るさとも言える。
部屋の広さは先程までの部屋の倍ぐらい。高さは少し高くなっているぐらいで他の部分ほどの変化はないが、広さ以外は見た目がほぼ同じ。違いと言えば、こちらには出入り口がひとつあるぐらいか。
出入り口には扉がついていないので、部屋の中から外の様子が窺えるも、少し先に壁が在るのが見えるだけ。
部屋を見回して気になる点と言えば、出入り口の枠が普通よりも明らかに大きい事ぐらいだろう。大柄の種族でも居たのか、それとも何か大きな物を出し入れするからかは分からないが。
『はい。もしかしたら、あの施設はここの一部だったという可能性もあるかと』
『なるほど。だから番号が問題なかったと』
『はい』
『だが、だとすると、わざわざここと分けた理由は何だろう? その番号を教える為だったとでもいうのだろうか?』
『それについては不明です』
『だよね』
ヒヅキは困ったような笑みを浮かべるも、直ぐに頭を切り替える。
『さて、それじゃあここを調べていこうか』
『はい』
二人は頷きあうと、外には出ずにまずは転移してきた部屋を調べていく。
調べていくと言っても、何も無いがらんとした場所なので、何かおかしな仕掛けが施されていないか確認するだけ。
しばらくして部屋を調べ終わると、ヒヅキ達は部屋を出る。部屋の外も薄明るいが、静かなのもあって不気味な雰囲気を醸していた。
少し進むと左右に道が分かれているので、角から道の先を確認する。
『うーん。何か在る感じでもない?』
覗き込んだ廊下は真っすぐ続いているが、特におかしな部分はない。少し前に探索していた建物の無限に続く廊下に比べれば、普通のちょっと広いだけの建物だろう
誰かが居るような気配も無いので、ヒヅキ達は警戒しながらも廊下を移動する事にする。
『とりあえず近くの部屋を調べてみよう』
ヒヅキはフォルトゥナにそう告げると、数歩先に見える入り口を目指す。
その部屋も扉が無いので、廊下からでも部屋の中が確認出来る。
『ここは……資料室なのかな?』
そこまで広くない部屋に本棚が並び、そこに紙束がびっしりと詰められている。机と椅子も置かれているが、どちらにも紙束が積み上げられてた。
ヒヅキ達は部屋の中に入ると、机の上の紙束に目を落とす。
『文字は読めないが、何かの確認をしていたのだろう事は分かるな』
そこには、文字が箇条書きのように規則正しく並んで書かれていて、その文字の頭には〇や×が書かれている。ほとんどが〇ではあるが、中には×もあった。そして、その×が書かれた文字の末尾には何やら小さく文字が書き足されている。
他の紙も確認してみるも、どれも似たような感じ。つまりはここは何かの確認をした資料を保管している場所という事なのだろう。
『転移してきた部屋の近くだし、外から搬入してきた資材か何かの確認でもしていたのだろう』
ある程度確認したヒヅキは、そう結論付ける。結構な数の紙束が保管されている事から、長い間この場所は稼働していたのだろうと推測出来る。もしくは頻繁に大量の資材などが持ち込まれていたか。
そして、そういった資料が持ち出されたり処分した様子もない事から、予定外に突然この場所が終了したといった感じでもあった。




