神域への道121
フォルトゥナがそのまま木に触れていると、魔法陣の輝きが増していく。二人は転移魔法陣の上に乗ったまま、魔法陣が起動するのを待つ。
それから数秒ほどすると魔法陣が起動して、ヒヅキ達は何処かへと転移した。
一瞬の意識の漂白や浮遊感を感じた後、ヒヅキは慣れた様子で目を開けて周囲を見回す。しかし周囲は真っ暗だったので、感知魔法で危険性の有無だけ手早く調べてから光球を現出させた。
(光球までは転移しなかったか)
ヒヅキが現出させている光球は魔法なので、制限に引っかかって転移しなかったのだろう。もしも魔法も転移するのならば、それを利用して攻撃魔法を転移させられたら堪ったものではない。
そうして光球で周囲を照らし出すと、そこは何処かの室内のようだった。窓も何も無い灰色の部屋は、温もりも味気も一切ない。
そんな無味乾燥な部屋はどうやら扉もないようで、出入りできそうな場所はない。
さてどうしたものかとヒヅキが思案するも、フォルトゥナは迷いない足取りで壁に近づいてそれに触れる。
何をしているのかと思ったヒヅキだが、調べている以外に答えもないかと考え、ヒヅキも部屋を調べてみる事にした。
ヒヅキ達が転移してきた部屋はとても狭い。縦横3メートルほどだろうか。高さは2メートルちょっとぐらい。
扉や窓以外にも飾りも明かりも何も無く、ただ灰色の壁と床と天井があるだけの部屋。いや、もしかしたら大きな箱なのではないかとさえ思えてくる。
そんな場所だが、壁や床を軽く叩いてみて調べてみると結構頑丈そうであった。
感知魔法で調べてみようとしても何かが邪魔しているようで、部屋の外の様子は全く窺えない。出力を上げて感知魔導で試してみるも、結果は変わらなかった。もしかしたら部屋の外は存在しないのではないかと思えてくる。
(罠だったのだろうか?)
転移魔法陣が在った場所はそれなりにしっかりと隠蔽されていたが、これ見よがしといえばそうなので、もしかしたら罠だったのではないかとヒヅキは考えた。部屋の中には転移魔法陣が無いので、どうやら一方通行だったようであるし。
それでも実はここは中継点で、関係者しか分からないような仕掛けが施されているという可能性もあるので、ヒヅキは引き続き部屋の中を調べていく。その間もフォルトゥナは同じ場所をずっと調べていた。
しばらくすると、天井が薄っすらと輝き出す。それに呼応するように床も光り出した。
何が起きたのかとヒヅキが警戒すると、
『次の転移が始まるようです』
フォルトゥナがそうヒヅキに告げる。
『次の転移? 何か在ったの?』
光が強くなっていく中、ヒヅキは思わずフォルトゥナに問い掛けた。
『その話の前に、まずはこの魔法陣の上に乗って頂ければと』
そう言って、フォルトゥナは足下の魔法陣を指差す。ヒヅキはちょうど隅の方を調べていたので、片足しか魔法陣の上に乗っていなかった。
フォルトゥナの指摘に、ヒヅキは魔法陣の上にしっかりと乗って中央に移動する。
それを確認したフォルトゥナは、天井と床の魔法陣の様子を確認しながら先ほどの問いに答える。
『私が調べていた壁に数字を入力する機器が隠されておりましたので、それに数字を入力したところ、このように転移魔法陣が起動したという訳です』
『ふむ。よく分かったね』
その言葉には、壁の隠しを見つけた事ついても、正しい数字が分かった事についても含まれているが、それを理解したフォルトゥナは1度頷いて言葉を紡ぐ。
『機具を隠していた部分につきましては、培養装置と考えられる例の機材に似たような場所が在ったからです。数字に関しても、同所で発見した関係者のモノだと思われる番号を覚えていたので入力してみました』
『なるほど』
フォルトゥナの答えにヒヅキが頷いたところで、転移魔法陣が起動する。そうすると、今度は薄明るい場所に転移した。




