仕事16
珍しく真面目なシラユリとそんな会話を交わしていると、朝食の時間がきたようで、宿舎から人足の人たちが続々と外へと出てくる。
「朝食だー! ヒヅッキー行こー!」
それに気づいたシラユリはいつものシラユリへと戻り、ヒヅキの手を引いて歩き出す。
ヒヅキがそのままシラユリに手を引かれるままに朝食が用意されている場所まで移動すると、そこは昨日と同じ場所であった。
ヒヅキはシラユリと共に列へと並ぶと、朝食を受け取り席に着く。
その日の朝食は、干し肉に、ジャガイモを蒸かした物、スープは野菜の水分でも使ったのか、葉物野菜が多く使われたスープであった。
後は小さな杯に一人一杯分だけのお酒が振る舞われていたが、お酒が苦手なヒヅキはそれを遠慮して、代わりに水を一杯頂いた。
「ヒヅッキーはお酒が飲めないのかー」
「ええ、まぁ」
シラユリが少し意外そうに、ヒヅキの前に置かれている水の入った小さな杯へと目を向けた。
しかし、直ぐにシラユリはお酒が入った自分の杯を見ると、それをヒヅキの方へと差し出す。
「?」
それを見ながら、シラユリの一連の動作にヒヅキは首をかしげる。
「乾杯だよ、乾杯ー。お酒が飲めなくてもそれぐらいは知ってるでしょー?」
「ああ」
ヒヅキは納得すると、水の入った自分の杯を手にして、シラユリの杯にくっ付けるようにして軽くぶつけた。
「乾杯ー」
「乾杯」
にゃははと嬉しそうに笑うシラユリ。
「シラユリさんはお酒が好きなんですか?」
「好きだよー。たまにしか飲まないけどねー」
そう言って、シラユリはお酒を一口飲む。
「それにしても、こんな場所で飲めるなんてなー」
シラユリは手元の杯に目を落とす。
そこには少し薄い茶色の液体の湖面が軽く揺らいでいる。
「何かあんのかねー」
それを眺めながらのシラユリの考えるような一言に、ヒヅキは一応の自分の考えを述べる。
「先ほど一緒に確認しましたが、遠くにスキアの姿が確認出来ますから、それが原因なのではないですかね?」
「あー、あれかー。あれは数が多かったねー。あんな数のスキアに襲われたら、こんな小規模な砦じゃ1日も保てないだろうよー」
シラユリは一つ息を吐くと、残りの酒を一気にあおった。
「ま、酒が呑めたんだし、満足かなー。それに、私たちはもうすぐ帰るからねー」
それだけ言うと、シラユリは朝食へと手を伸ばして、それを口にしていく。
「そうですね、ガーデンに戻って仕事は完了です」
ヒヅキも朝食を食べ始める。
「ヒヅッキーはさ、帰ったらどうするのー?」
「どうするとは?」
「これで武器輸送は一旦終わりだからさー。その後は何するのかなーって」
「ああ」
シラユリにそう問われて、ヒヅキははじめて仕事が終わった後の事を何も考えていなかった事に気がつく。
「まだ何も決まってませんね。いくつか候補はありますが、まだ検討中です」
「そっかー。暇だったらまたウチのギルドハウスに遊びにおいでよー」
「そうですね。考えておきます」
そう言って、ヒヅキはシラユリに笑いかける。
ヒヅキは朝食を食べながら、頭の中で今後の予定をいくつか立てるのだった。




