神域への道101
とはいえだ、あまりにも情報が無さ過ぎるのもまた事実。この建物だけの世界を創ったのが今代の神だとすれば、その中身を用意したのもまた今代の神なのだろう。
しかしヒヅキ達は知らないので、その中身も実際に在った世界から持ってきたという保証は何処にもない。仮に実際に在ったのだとしても、答えを誘導されているという可能性だって十分にあった。何せ今代の神は愉快犯のような存在なのだから、こちらが手のひらで踊れば踊るほど愉しめるのだろう。
そういった、現在知りえている様々な情報を吟味すると、余計に答えは霞んでいく。浮かんだ考えのどれかが正解なのかもしれないし、未だに答えには辿り着いていないのかもしれない。もしくは、そもそもそんなモノは存在していないという可能性だってある。
(考えれば考えるほどに頭が痛くなる話だな)
せめて今代の神の性格がもっとまともか、逆にもっと悪ければ判断しやすくなるのだがと、ヒヅキは胸中に苦い想いを抱く。相手を弄ぶのが好きなひねくれ者など、どうとでも解釈出来てしまう。少なくとも、まだまだ今代の神について詳しくないヒヅキでは判断しにくい。
なので、とりあえずこの場所は人造神が関わっている可能性が在るとして保留とした。もう少し情報を集めなくては決断するにも難しい。
(崩れた建物や原始的な集落に何か情報があればよかったのだが)
そう思うが、崩れた建物内は家財道具は在っても資料のような類いはほとんど存在しなかった。少数ながらも紙は見つかっていたのだが、見つけた時にはそれはボロボロで、何かが書かれていたというのがなんとか分かったぐらい。保存されていた部屋では何も見つけられなかった。
原始的な集落では、そもそも生きていくだけで精一杯といった感じで、何か記録を残す余裕は感じられなかった。実際に探しまわって見ても、そういった類は何も見つかっていない。
そういう訳で、現状では同じ木と何処までも続く荒野しか情報が無い。邸宅か別荘のような建物や、追放者達の集落のような原始的な場所も在ったが、そちらはどう判断していいのかヒヅキには難しかった。
休憩を終えた後、ヒヅキ達は移動を再開させる。進む方向は同じで、とにかくこの荒野の端を確認する事にした。当初は広さの確認というだけだったが、今ならばその必要性も感じている。
ただ、行けども行けども荒野ばかり。そろそろ終わりが地平の彼方に見えてくるのではないかと思うが、その様子は無い。
(まるであの廊下を進んでいる気分だ)
建物内に在る廊下は、始端と終端が繋がって無限に続いている廊下となっている。更に道中に在る部屋は時折姿を変えるので、何も知らなければ本当に無限に続いているように見えるのかもしれない。
何処まで進んでも果てしなく続く荒野は、まるでその廊下のようだった。周囲が同じ景色ばかりなので、迷っているように思えてくるが。
(いや、もしかしたら方向感覚がおかしくなっているとか?)
ヒヅキは足下に視線を向けてみるも、足跡は確認出来ない。後背に視線を向けてみたが同様のようだ。
試しに長剣を抜いて切っ先を地面に当てながら歩いてみると、問題なく地面に線が引けた。ただし、ちょっと風が吹くだけで消えるかもしれないほどに細い線なので、引いたところで見落とす可能性がある。
長剣を鞘に納めながら、さてどうしたものかとヒヅキは考える。何処までも同じ景色なので、何か目印になる物がなければ確認も出来ない。
そうしてヒヅキが考えていると、フォルトゥナがどうしたのかと尋ねてきたので、ヒヅキは自身の考えを伝える。そうすると、フォルトゥナは周囲の土を使って近くに膝丈ほどの塚を築いてみせる。
『こんな物でどうでしょうか? 今は魔法で造りましたが、念の為に土を掘り起こして手で造った方がいいかもしれませんけれど』
『うん。それでいいね』
足跡を知りたいというのもあり、地面に何かを描く事ばかりに思考が割かれていたようで、ヒヅキはフォルトゥナの案に、そういうやり方もあるかと感心すると、早速とばかりにその案を取り入れて周囲の地面から土を集めて塚を築き始めた。




