神域への道96
他にも何かないかと調べ終えた後、ヒヅキ達は崩れた建物を後にした。
『それにしても、これは普通に持ち出せたな』
そう言ってヒヅキが視線を向けたのは、部屋を保存していた魔法道具であった。それが無くなれば魔法による部屋の保存はされなくなるので、直ぐにではないが、いずれあの部屋も朽ちていくのだろう。変化するのであればだが。
(まぁどうでもいい話だ)
ヒヅキにとっては関係の無い話だし、そもそもここは再現された場所でしかないのであろうから、そんな事を気にするだけ無駄というもの。
『さて、次は森の中か。一体何があるというのか』
ろくに奥まで見通せない暗い森の中は、いかにも何かありますと主張しているように思えてくる。
『それにしても、崩れていたとはいえ、ここに建物が在った以上は誰かが住んでいたと思うのだが、獣道程度も残っていないのだな。それほど昔の建物だったのか、それともわざわざこんな場所に建てながら使わなかった別荘だとでも言うのだろうか……』
ヒヅキは周囲の森を見回してそう思う。人はおろか、小動物が通っていた形跡すら確認出来ない。どこまでも草と木が生えているだけの場所。
『まぁいいや。それよりも、どの方向に進もう』
廊下側の方角を背にしてヒヅキは考える。そちら側を除くとしても、先に何が在るのか分かっていない方向が多い。何処を向いても似たような景色ばかりなので判断に困る。
耳を澄ましてみても音はなく、尋ねてもフォルトゥナにも進みたい方向はないようなので、もう適当に進んでみるしかなかった。
『それじぁ……廊下側を背にして真っ直ぐ進んでみるか』
ここが部屋ならば、奥の方へと進むという事になる。何処に進んでも何があるのか分からないので、それが正しいのかどうか不明。
それでもまぁいいかと考えながら、ヒヅキは先へと進んでいく。
草を払い、木々を避けて進む。森の中に入れば次第に草の高さが低くなり、量も減ってきた。
木々は何処まで進んでも同じ種類のようで、進む者を迷わそうとしているかのように思えてくる。鳥や虫の鳴き声が聞こえないのは、最近では珍しくもなかった。
何処まで行っても似たような景色が続くも、それでもとりあえず真っ直ぐ進む。一応木の幹に目印として傷を付けてはいるが、それに意味があるのかどうかは分からない。
(木も再現したものであれば、傷が無くなる可能性もあるからな)
そう思うも、木に結ぶ紐もそこまで多く持っていないし、長い紐にしても直ぐに足りなくなるだろう。なので、迷ったら迷った時に考えようと思う事にして、ヒヅキは更に奥へと進んでいく。
そうしてしばらく進んだところで、ちらほらと切り株が目に入るようになる。といっても、切り株の横から新しい芽が出ていたりと、それなりに古いようだが。
『この辺りに誰か住んでいたのか、それともあの建物の者か』
そう考えたものの、崩れた建物からは離れ過ぎていると思うので、近くに誰かが住んでいるのかもしれない。切り株の数はそこまで多くはないようなので、住んでいたとしても少人数だろう。もっとも、実際にここに誰かが居るとは思わないが。
それでも集落の跡ぐらいは残っているだろうと思ったヒヅキは、切り株が続いている方向へと進んでみる事にした。




