神域への道91
フォルトゥナが室内に入ると、空気が一変したのが分かった。廊下に流れていたひんやりとした無機質な空気とは異なり、室内の空気は粘り気でもあるのではないかと思える程に湿気っている。
(ここには微量の毒が漂っているようですね)
室内の空気を調べたフォルトゥナは、不快げに僅かに眉根を寄せる。空気に漂っている毒の量は微量だし、毒性も弱い。しかし、この広い森のような場所を探索している内に蓄積されていき、いずれ効果を発揮するのだろう。
それを直ぐに気づけたのは幸いと、フォルトゥナは毒に対処しつつも他に警戒すべき点はないかと周囲を見回す。
入って直ぐの場所は、崩れた建物の前の開けた場所。地面がむき出しだというのに、草が少し生えている程度で奇麗なまま。建物の朽ち具合を見るにかなりの年月が経過しているはずなのだが、人の手でも入っているのか、はたまた植物の生長を妨げる何かが仕込まれているのか。
調べてみたが特に気になる感覚も無かったので、視界が開けているのなら別にいいかと考えたフォルトゥナは、軽くそこら辺を見回ってみる。あまり長々と調べている時間はない。
廃墟は石を積み上げて建てられていたらしいが、それも崩れて石の山と化している。建物は3階建てだったようで、2階と3階部分が一部だけ残っていた。
1階部分は上階から落ちてきた床や天井によって大部分が埋もれているが、それでも無事な部分もある。しかし、長年風雨に晒されていたからか、残っていた家財は全て壊れるか腐っていた。
フォルトゥナは建物から森の方へと視線を動かす。建物を囲むように存在する森は暗く、奥の方が見えない。
木々の足下には腰丈ほどの草が生い茂り、何かが今にも飛び出してきそうな不気味さを醸し出している。
耳を澄ましてみても、音は消え失せたかのように何もしない。葉擦れの音もなく、鳥や虫の鳴き声も存在しなかった。
においは泥臭いとでも言えばいいのか、においだけで判断すれば、森の中というよりも沼地にでも来たかのような臭気。それに毒が混ざっているのだから、不快感はかなりのものだろう。
フォルトゥナは最後に森に近づいて、外から森の中の様子を確認してみる。近くまで来るとより不気味に感じる。
肉眼では暗い森の中は確認出来ない。感知魔法では床がぬかるんでいる以外にはただの森だ。もっとも、そのぬかるみは毒混じりのようで、空気中の毒よりも濃度は高いだろう。ここで転んだら大変なことになるかもしれない。
生き物はどれだけ注意深く探してみても確認出来なかった。森の中には植物が生い茂る毒のぬかるみが広がるばかり。
(この植物も気をつけないといけませんね)
植物が襲ってくるという事はなかったが、それでも毒のぬかるみの中で育っている植物だ、警戒していた方がいいだろう。
一通り入り口の安全を確認したところで、フォルトゥナは廊下に戻る。それと共に調査結果をヒヅキに報告した。特に毒の空気についてはしっかりと報告しておく。風の結界を展開させるにしても、廊下に居る段階で展開しなければ効果が薄くなってしまう。
それからしっかりと準備をしたところで、ヒヅキはフォルトゥナに続いて森の中へと入っていった。




