神域への道89
廊下を進む。黒い部屋から幾つか部屋を過ぎたが、あれからは何も無い部屋が続いていた。それが逆に不気味に感じたのは、未だに横道に辿り着けないからだろう。
女性とクロスに関しては、全く動きが無いらしい。それを聞いてヒヅキは、やはり何かを解析でもしているのだろうかと思った。
それからもしばらく進んでいると、とうとう霞んで見えていた果てなき廊下に終わりが現れる。いや、終わりというよりも途切れている部分だろうか。
まだ距離があるので詳しくは分からないが、それでも途切れているのは分かった。更に距離を詰めると、廊下の終わりから離れた場所に途切れている廊下の先が続いているのが見えてくる。
(廊下の終端は暗闇だが、あれは越えられるのか?)
奥へ続いている廊下へと渡るには、途中の真っ暗な空間を越えなければならない。しかし、離れていても嫌な感じが伝わってくるような暗闇に、ヒヅキは本当に越えられるのか疑わしくなってくる。
だがフォルトゥナの話では、女性とクロスの反応はその先、暗闇を越えた先に続いている廊下の更に奥の方から感じているらしい。という事は、暗闇の空間を越える何らかの手段が存在しているという事だろう。
(それが俺達でも使えるかどうかが問題だが)
女性とクロスはヒヅキよりも実力がかなり上だと思われる。実際に手合わせした訳ではないので推測でしかないのだが、それでも間違っていないだろう。
そうなると、女性やクロスぐらいの実力なら越えられても、ヒヅキ達では越えられないという可能性も出てくる。
(とりあえず近くまで行ってからだな)
道中の部屋を確認しながら、ヒヅキ達は廊下の終わりへと近づく。そして、とうとう廊下の終わりに到着した、
『何も無いな』
廊下の途中で断絶しているその場所の先は、光の無い空間が広がっている。現在地は地下のはずだが、地面の中というよりも闇の中というほうが正しいだろう。周囲に土などの何か物質があるようには思えなかった。
建物の外は何も無い。クロスがそう報告していたが、もしかしたらそれはこういうことなのではないだろうか。そう思わせるほどの闇が眼前に広がっている。
そんな中で光を放つ場所が遠くに存在する。それが断絶している廊下の先なのだが、ヒヅキは周囲を見回してみるも、何か渡る方法になりそうなものは見当たらない。
『あの先にはどうやって行けばいいんだ?』
そう疑問に思いながらも、ヒヅキは背嚢から不要になった物を取り出して暗闇の中に放り投げてみる。闇の中に投げ入れられた物は直ぐに闇の中に呑まれて見えなくなった。
『廊下の先に出た瞬間に消滅するとかではないのだな。かといって、普通の谷底のような感じでもない。闇の中に何か居るかのように呑み込まれた気がするし』
大型動物の口の中にでも肉の塊を放り込んだかのように突然闇に包まれたのを見て、ヒヅキはなんとなくそう思った。
もしかしたら見えないだけで本当に闇の中には何かが潜んでいるのかもしれないし、もしくは闇そのものに意思があるのかもしれない。
『さて、どうしたものか。……戻ったら道が変わってるとか増えているとかなってないかな?』
ヒヅキはどう進もうかと思案するも、いい案が全く思い浮かばないので、他の方法を考えてみる。そこで思い出したのが、コロコロと変わるらしい部屋の様子だった。
来た時は何も無かった部屋に少し時間を置いてから来たら何かが置かれていたとか、またその逆の話などをヒヅキは英雄達から色々と聞かされていた。
それを思い出したヒヅキは、廊下も部屋同様に変化するのではないだろうかと考えたが、しかし英雄達からそういった話は聞いていない。
それでも可能性は無いとは言えないだろう。なにせここは何が起きてもおかしくないのだから。
『フォルトゥナはここを越える方法を何か思いついた?』
暗闇に向けて魔法や魔導を放って確かめていたフォルトゥナにヒヅキがそう問うと、成果が無かったのか申し訳なさそうに首を横に振った。
その後に二人は少し話し合ってみたが、結局暗闇を越える方法は思いつかなかったので、一旦来た道を引き返してみることにしたのだった。




