神域への道86
フォルトゥナの説明を聞いた後、『という事はこの巨大な機具はもう起動しないのか』とヒヅキが問うと、フォルトゥナはそれを肯定した。
結局ヒヅキには何の機具だったのかは分からないが、動かないのならばもう用はないだろう。調べても分からなかったヒヅキとしてはその程度の感想なので、もう次に進んでもいいと思うのだが、それでもフォルトゥナが真剣な表情で調べているのを見ると、調べるのを切り上げて次に進もうとは中々言い出せない。
それに、もしかしたらフォルトゥナならば何か分かるかもしれない。という期待も少しは抱いていた。分かったから何か進展があるとは限らないが、何も分からないよりはいいだろう。
そう思ったヒヅキは、フォルトゥナに声を掛けずにもう少しその辺を調べてみる事にした。もしかしたらヒヅキにも何か分かる部分があるかもしれない。
それからしばらくして、結局ヒヅキではほとんど収穫が無かった。フォルトゥナが配線を調べていた場所のような、機具に取り付けられていたふたを開ける事は出来るようになったが。
何か進展はあったかと思い、ヒヅキはフォルトゥナの近くに移動する。
ヒヅキが他の場所を調べている間に配線の方の調査は終わったのか、フォルトゥナは別の場所の調査をしていた。
「………………」
真剣な表情のまま、手元で何かを操作しているようで、カタカタと何か硬質ながらも軽い物ががぶつかるような音を響かせている。
ヒヅキも別の場所で同じように操作してみたが、その時は何の反応もなかった。そもそも機具が稼働していないという事だったので、反応する訳もないのだが。
『それは動くの?』
その様子を少し眺めた後、ヒヅキはフォルトゥナに問い掛けてみる。
『一応動いていると言えるのでしょうか……内部で反応してはいるようですが、それだけのようですね。こちらで操作したからといって何かが作動するという事はないようです』
『そうなんだ』
『はい。肝心な部分には命令が届いていないのでしょう』
『ふむ。なるほど』
『あ、そろそろ先へと進むのであれば、調べ終えたので問題ありませんが?』
『ん? そう? なら先に進もうか』
『はい』
操作を止めたフォルトゥナはヒヅキの方に顔を向けて頷く。それを確認したところで、ヒヅキは先へと進む事にした。
『それで結局、あの巨大な機具が何だったか分かったの?』
『確実な事は申せませんが、おそらく何かを培養でもしていたのではないかと』
『培養? 植物とかを育てるやつ?』
『はい。実験で使う動植物などを人工的に増やしたりするあれです』
『あれを行う機具? かなり大きかったけれど』
『あくまで推測ですが、あの機具は生き物を人工的に育てていたのではないかと』
『あの中央の透明な容器で?』
『はい。なので規模があれほど大きくなったのではないかと。もっとも、何を育てていたのかは分かりませんが……』
『ふむ。なるほどね』
フォルトゥナの見解を聞いたヒヅキは、思考を巡らせてみる。
(透明な容器に関しては、そこそこ予想通りだったという事か。後は中身だろうが……こればかりは分からないな。あれが何処の世界から持って来られたのかも不明なのだから)
そう思うヒヅキだが、頭の中では何故か人造神という言葉が浮かんでは消えていた。
(……まさかね)
この建物内は、様々な世界からの寄せ集めで出来ている。今まで調べたところ、隣同士など近い場所の部屋だと同じ時代同じ場所から持ってきたという可能性はあるが、それ以外だと何とも言えない。
人造神については隣どころか地下でもなく、地上階の部屋でそれが書かれた日誌を発見した程度。かなり間に距離があるので、今までの経験的には同じ時代という可能性は低いように思えた。
それ故に、ヒヅキは首を振って浮かんでは消えるその考えを否定するのだが、しかし何故だか先程の部屋について考えると、人造神という単語が頭から離れてくれなかった。




