神域への道81
1時間ぐらいだろうか。建物の中では時間の感覚が曖昧なので何とも言えないが、目を覚ましたヒヅキは身体を解しながら、なんとなくそれぐらい寝た気がして周囲に目を向ける。
『何か変わった事はあった?』
周囲を見回しながら、周辺の警戒を任せていたフォルトゥナにヒヅキはそう問い掛ける。
『何もありません。誰かが通ったという事もありません』
『そっか。ありがとう』
礼を言った後、ヒヅキは用意した魔力水を飲む。
現在は今代の神のお膝元とはいえ、何も無い部屋だとあまりにも変化に乏しいので、少々空気が弛緩していた。それでも周辺の警戒は怠らないのは、もはや無意識であろう。
目を覚ましたヒヅキは、そのまま少しの間のんびりとする。現在の状況は迷子に近いので、そう焦る事もない。先へ進んでも何か在る保証はどこにも無いのだから。
しばらくのんびりと休憩を取ったヒヅキは、片付けをしてから部屋を出る。
移動を再開したはいいが、相変わらず廊下の先は霞んでいて終わりは見えないし、道中の部屋は変化がない。
『うーむ。こうも変化が無いと、ちゃんと進めているのかどうか考えてしまうな』
何も変化が無いのは今までの探索でも度々あったことではあるが、今回は妙に長い距離を移動した先の出来事なので、その時よりも不安が大きいのだろう。
『というか、このまま今代の神の前にでも到着したら困ってしまうな』
ヒヅキは冗談めかしてそう口にする。それも可能性としては無い訳ではないが、おそらくかなり低いだろう。ヒヅキもそれを理解していての発言であった。
そんな事を言いながらヒヅキが気を紛らわせていると、フォルトゥナが先の方を見つめながら僅かに目を細めた。
『微かにですが、二人の反応らしきモノを感知しました』
『どれぐらい距離があるか分かる?』
『申し訳ありません。この辺りは距離の感覚が曖昧なようでなんとも……ですが、ギリギリの範囲で感知出来たので、その辺りかと』
『なるほど。それならかなり遠いかもね。というか、ここはまだそんなに続いているのか……』
距離が曖昧なようなので、実は驚くほど近いという可能性もあるが、ヒヅキの感知には引っ掛かっていないので、おそらくそれはないだろう。
とりあえずこれで目標が出来た事になる。ついでに、ちゃんと前に進んでいたという事が分かった。
『それにしても、女性とクロスは二人で行動していたのか。という事は、向こうに道が在るのかもしれないね』
ヒヅキ達一行の中でも際立って異才な二人である。その二人がおそらく奥深くであろう場所に居るという事は、もしかしたら転移魔法陣でも見つけて解析でもしているのかもしれない。この建物に繋がっていた転移魔法陣の解析だけでも時間が掛かっていた。無論、それでもありえないぐらいに解析は早かったが。
それから、捕捉はフォルトゥナに任せて先へと進む。ヒヅキも感知は行っているので、何処かで捉える事が出来るだろう。
先へと進むと言っても、やる事は変わらない。部屋の確認は怠らないし、廊下を駆け抜けるなんて事もしない。
そうして二人が廊下を進んでいると、視線の先に人影のようなモノを捉える。距離が在るのではっきりとは見えないが、廊下側から部屋の中を覗いているように見えた。
しかし、感知にはその辺りに生き物の反応はない。視線の先に居る人影辺りで感知出来ているのは石像だった。
つまりその人影は、石像という事なのだろう。そう思えば、人影を視界に捉えてから一切動いていないのも納得出来た。




