表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1416/1509

神域への道79

 部屋の中から漏れてきた熱に、ヒヅキは一旦扉を閉める。

(これは本当に燃えているという事だろうか?)

 そう思うも、炎の見た目はともかく、他では到底本物だとは思えない。しかし、扉を開くと中からやけどしそうなほどの熱気が噴き出してくる。という事は本物なのだろうかと思うも、判断が難しい。

 ヒヅキはもう1度扉を開く。熱気が身体を焼くが、中に入らなければ大丈夫そうだ。

「………………」

 ヒヅキは少し考えた後に再び扉を閉めると、少し距離を取った場所で風の結界を発動させる。そうして準備を整えたところで、再度扉を開けた。

「………………ふむ」

 風の結界に護られているので、先程までと違って熱は感じない。それを確認したヒヅキは、警戒しつつも部屋の中に入った。

 部屋の中は火事の真っ只中のように眼前で炎が燃えている。その圧迫感に、頭上を撫でるように過ぎていく炎がこちらを窺っているかのようにさえ思えてくる。

(部屋の中は、外で感じるよりも熱いようだな)

 風の結界越しでも僅かに熱を感じたヒヅキは、そんな感想を抱く。やはり炎は本物なのかもしれない。

 そう考えたヒヅキは、背嚢の中から燃えそうな不用品を取り出すと、それを長剣の先に括りつけて炎に近づけてみる。

(この剣と鞘なら、火ぐらいはものともしないだろう)

 そんな事を思いながら炎に近づけた不用品は、しばらく経っても燃える様子は無い。

『熱だけという事なのかな?』

 そう思って長剣を戻すと、先に括りつけていた不用品を回収する。

『……ん? 熱くなっていない?』

 仮に炎が偽物で燃えなかったとしても、部屋の中には熱が満ちているはずであった。なので、それなりの時間風の結界の外に出していたら熱を持っていてもおかしくはないはず。なのに、手元に戻した不用品は温かくもなっていなかった。それは長剣も同様。

『炎は偽物だとしても……もしかして、この熱も偽物?』

 幻覚の類いは五感に影響を及ぼす。中には特定の感覚のみに作用する幻覚も存在していて、対象を絞っている分、そちらの方が五感全てにに作用する幻覚よりも強力な効果を持つ場合があった。といっても差は僅かではあるのだが、その僅かな差が大きいのだった。

 それを思い出したヒヅキは、もしかしたらこれは別々の幻覚を組み合わせた部屋なのだろうかと考える。そう考えると、想定よりも幻覚の威力が強いのも頷けるというもの。

 ヒヅキは深呼吸をして心を落ち着けると、全てが強力な幻覚であるという事を前提に対策していく。

 思いつくだけ対策を重ねたところで、ヒヅキは風の結界を解除する。

 少し前までであれば、そんな事をすればやけどぐらいはしていたかもしれなかったが、今では熱すら感じない。それこそ太陽の下を歩く方が暑いだろうほどだ。

『やはり幻覚だったか』

 少し悔しげに呟いたヒヅキは、ちらと隣の様子を確認してみる。そこには風の結界のような分かりやすい防御を全くしていない、普段通りのフォルトゥナの姿があった。

 その姿に、もしかしたらはじめから幻覚だと気づいていたのではないかと思ったが、何も言ってこなかったので途中で気づいただけかもしれない。もっとも、事実がどうであれ今更なのでどうでもいいのだが。

『さて、わざわざ炎の幻覚まで用意しているという事は、この中に何か在るのだろうか?』

 頭を切り替えたヒヅキは、この部屋が炎の幻覚で満たされている理由を思案する。外からでは炎しか確認出来ないなので、何かを隠すにはちょうどいいだろう。

『それにしても、この炎の幻覚は消えないけれども、よほど強力な幻覚なのだろうか……?』

 熱は感じなくなったが、それでも消えずに燃え続けているように見える炎に、ヒヅキは首を傾げる。

『おそらくですが、炎に関しては幻覚とは違うのではないかと』

『違う?』

 フォルトゥナの返答に、ヒヅキは益々意味が分からないといった風に首を捻った。

『はい。これはあくまでも私の推測ですが、この炎は映像なのではないかと』

『映像?』

『はい。空間にその光景を投射しているのではないかと』

『それは幻覚とは違うの?』

『恥ずかしながら詳しくは存じ上げませんが、妖精族の中には、霧などに巨大な影などの映像を投射し、それで相手を威嚇して防衛に使用しているという話を聞いた事があります』

『ふむ。ここは何でもありだからね。真偽はともかくそういう話があるのなら、ここではそういうのも存在するのだろう』

 とりあえず納得したヒヅキだが、それを知ったところで結局やることは変わらなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ