神域への道78
地下2階の調査は順調に進んだ。もっとも、何も無いのを順調と評していいのかは人に拠るだろうが。
『途中で休憩を挿んだとはいえ、結構調べたと思うのだが?』
『はい。今までの階層であれば、そろそろ昇降機への道が見えてきてもおかしくはないのですが……』
ヒヅキとフォルトゥナは揃って首を捻る。既にかなりの距離を歩いているのだが、未だに地下1階から降りてくる際に使用した昇降機の許に辿り着けないでいたから。
『うーん。この階層だけ他よりも広いという事なのだろうか? それとも別の場所に通じてしまったとか?』
可能性を挙げればきりがないのはヒヅキも知っているが、それでも少しぐらいは指針が欲しかった。
『でも、周囲の景色は変わってないんだよな。となると、やはりここだけ空間が広いという事になるのだろうな』
かなりの距離を歩いているとはいえ、横道が発見出来ないというだけで周囲の景色に変化は無い。
先が霞んでいる真っ直ぐな廊下に、何も無いか実験器具が置かれているだけの部屋。これが地上であれば外の景色を確認出来るのだが、残念ながら地下なので眩しいだけの壁が続くばかり。
(この明かりにも慣れたものだ)
周囲を見回したヒヅキは、ふとそんな事を思う。最初の頃は近くを移動するのも目が痛くなるほどだったが、今では直視さえしなければ気にならなくなっていた。
『しかしそうなると、ここに何かあるという可能性が高いという事か? いや、今まで先に進む手掛かりがなかったから、何かあるならここなのだろうが』
廊下を進みながら、何か見落としがなかったかとヒヅキは考える。しかし、途中途中で魔導に集中したりしていたので、思い返してみれば見落としは無かったと自信を持って断言は出来そうもない。
もっとも、一緒に居たフォルトゥナが何も発見していないので、何も無かった可能性は高いだろう。少なくとも、もしも何かあったのだとしても、それはフォルトゥナでも何も見つけられないほどのモノだったというのは確実。であれば、たとえ集中していたとしてもヒヅキなら発見出来たとは言えない。
とりあえず、道中何も無かったという仮定で、思考を先へと進ませる。
『この建物には何かあるという事も仮定しておくとして、そうなるとこの先に何かあるという事なのだろう。フォルトゥナ、女性とクロスを感知出来ない?』
ヒヅキの問いに、フォルトゥナ申し訳なさそうに首を横に振る。
『ふむ。やはり感知出来ないようにしているのか。……それとも、フォルトゥナでは感知出来ないほどに広いという事か』
現状を鑑みるに、後者である可能性も高いと思われるが、その辺りは進んでいればいずれ判明するだろう。
色々と思案しながらも、ヒヅキ達は部屋の確認を怠らない。フォルトゥナ曰く、近くに英雄達の存在は感知出来ないらしい。おそらくクロス以外の英雄達は既に通り過ぎているのだろう。幾人か足りなかった気もするが、たまたま会わなかっただけだろう。
それからしばらく廊下を進んでいると、廊下を真っ赤な明かりに染め上げている部屋を見つける。
部屋の前まで移動して中を覗いてみると、部屋の中が盛大に燃えていた。それこそ、部屋の中に炎が届いていない場所がないほどに。
『凄い勢いで燃えているな。だけど廊下側には熱が伝わってこない。それに窓も焦げていないようだし、もしかしたらこれは見た目だけの炎なのだろうか?』
今までも見た目だけというのは何度もあった。なので、もしかしたらこれも燃えている部屋を再現しただけで、実際に熱を持つという訳ではないという可能性もある。
それでも僅かに躊躇ってしまうのは、赤々と照らす炎があまりにも本物に見えるからだろう。
そんな自己分析をしつつもヒヅキがそっと部屋の扉を開くと、中から熱風が外に漏れてきたのだった。




