神域への道77
ヒヅキの魔導の修練は非常に捗った。未だに光の魔法の魔導への変換は上手くいっていないが、それ以外に関しては順調そのもの。つまり、それだけ何も変わった事が無かったという事なのだが。
実験器具が置かれているか否か、調査にそれ以外の変化は無く、また時折英雄達の一団の居る場所に到着しても、何やら真剣に実験している風景を廊下から眺めるだけ。
実験内容に関しては未だに不明なれど、おそらく一団によって実験内容が異なるのではないかと思えた。まぁ、使用している実験器具や実験方法、それに素材が少しだけ違うというだけで、もしかしたら実験全体の内容自体は同じで、その進捗状況や順番が異なるだけかもしれないが。
そうして地下2階の探索は順調に進んでいる。依然として女性やクロスは確認出来ていないが、それでも大分地下2階の探索は進んだだろう。
『今でも女性やクロスの存在は捉えられない?』
『はい。申し訳ありません』
『いや、そんなに気にするほどでもないよ。別に急ぎでもないし』
ヒヅキ自身も二人を感知出来ていないので、フォルトゥナを責める気はなかった。それに、仮に今代の神との戦いまで二人と会えなかったとしても、それはそれで問題ないとヒヅキは思っている。ヒヅキは別に世界の謎とか、そういった事柄にはほとんど関心が無いのだから。知ったところでやる事が変わる訳でもなしに。
『それに、この階層が本当に最後の階層なんだろうか?』
『それは不明です。昇降機では地上3階と地下2階までしか移動出来ないというだけですから』
『だけど、探索しても階段とか梯子みたいな上下の移動手段は他に発見出来ていないからね』
『はい。ですが、ここは最下層とされている場所。もしかしたら上空には無くとも、地下には進む場所が在るのかもしれません』
『その可能性もあるか。今のところこの世界から先に進む場所は見つかっていないんだよね?』
『道中で話を聞けた英雄の話によると、ですが』
『そうだよね。このまま見つからなければ、この道は間違いだったという事になるのかな?』
『そうなるかと。戻れば進める道は多く残っていますから』
『まぁ、そうだね』
灰色の世界には、他にも様々な世界へと繋がっている歪みが存在している。その全ての歪みの先を調べた訳ではないので、もしかしたらその中に正解が存在しているかもしれない。
ただ、相手はひねくれた性格の今代の神である。そうみせかけて、実はそもそも正解は存在していないという可能性も少しはあるだろう。自分の許に到着させて、己の無力さを知らしめて愉しむという事以外にも、必死に探して無駄だったと知った瞬間を愉しむというのも今代の神らしいと思えた。どちらの可能性もあるので、必ず何処かに道は存在するとは言えなかった。
ただそれでも、女性や英雄達が読み解く限りは、この道で合っているという事ではあるらしい。その辺りが門外漢のヒヅキは、それに従って行動するよりほかにない。
『とりあえず、今はここの探索かな。もしかしたら女性達は、先へと進む道を見つけて調べている最中という可能性もある訳だし』
毎度そう思うが、既に結構な時間が経過している。もしも解析しているのだとしたら、それはかなり複雑という事だろう。それとも転移先が困難な場所なのだろうか。ヒヅキがそんな事を考えていると、
『進んだ先から戻って来られなくなっているという可能性もありますが』
フォルトゥナがその可能性を提示する。だがそうなると、ヒヅキではどうする事も出来ない。
『その時はその時さ。その場合は先に待っていると思うことにするよ』
その部分は考えても仕方がないので、ヒヅキはその辺りの考えは全て棄てる事にする。とりあえず今は、現在調べている建物の探索を終えるのが優先だった。




