神域への道74
部屋に置かれていた実験器具が実際に使えることを確認した後、ヒヅキは使用した実験器具を調べてみる。
『ちゃんと使用した汚れは付着しているようだね』
『はい。ですが、簡単に洗い落とせるようです』
ヒヅキがフォルトゥナの方に視線を向けてみると、フォルトゥナは使用した容器に水を入れて軽く揺すっていた。
ただそれだけで、煮詰めた際に付着していた水分が飛んで出来た跡が奇麗に落ちていく。僅かに残っていたドロドロとした液体も一緒に水の中で踊っている。
そのまま洗浄した水を近くの容器の中に移す。そうして水で洗い流しただけで、洗った容器は元の状態に戻っていた。
『汚れが付着しているように見えて、実はそうではないのか。この実験器具は時が止まっているのか、変化はしないのかもしれないね』
その言葉の後に近くの実験器具に目を向けて、『使用する分には問題ないようなので、これはこれで便利なものだが』と、ヒヅキは付け足す。問題なく使用出来るのに汚れないというのだから様々な用途に需要があるだろう。
そんな便利な実験器具だが、どうやって出来ているのかは分からない。ヒヅキは時を止めていると言ってみたが、そうとも限らない。
『そもそも、これが使用出来るという時点で、時が止まっているというのとは違うのだろうが』
素材を煮る際に使用した火を点ける器具を手にしたヒヅキは、火を点けたのに焦げていない紐の先端と、火を点けたのに減っているようには思えない中の液体に視線を向けてそう口にする。もしも時が止まっているのであれば、これに火が点くとも思えなかった。
『まぁ、それを言ったらにおいがする時点で、という話だが』
苦笑気味にそう付け足した後、ヒヅキはその実験器具を戻す。
『その辺りは別に何でもいいか。それこそ、この建物の壁と同じという可能性もあるし』
現在ヒヅキ達が探索している建物は、壁に傷を付けても修復してしまう。傷の度合いによっては修復に時間が掛かるようではあったが、それでも自動で修復してしまう不思議な建物であった。
そんな建物を探索している時点で、実験器具など大した事ないように思えてくる。
『さて、この部屋には何も無かったようだし、そろそろ次に行こうか』
実験器具を使用出来て満足したヒヅキは、そのまま廊下に戻る。部屋の中については既に調べているので問題ない。
それから廊下を進み、幾部屋か調べ終わった後、横道を発見した。
『これでこの階層も1周したのかな?』
『おそらくですが』
横道の先に昇降機の存在を確認したヒヅキは、フォルトゥナにそんな話をしてみる。今回は目印を置いていないので、確認した昇降機が地上から降りてくる際に使用した昇降機かどうかは分からない。もしかしたら別の昇降機かもしれない。
もっとも、それでも問題ないので、確認というよりも世間話に近い。
フォルトゥナもそれを理解しているので、ヒヅキの問い掛けに軽く頷くだけ。昇降機の前に移動すると、毎度のようにポーンという軽快な音が廊下に鳴り響く。
そして昇降機の扉が開くと、変わり映えのしない狭い部屋が現れる。
そのまま二人で昇降機に乗ると、いよいよ最後の階層である地下2階へと移動した。




