神域への道73
刻んだ塊根を、ついでに刻んでみた葉っぱや茎と一緒に手近な場所に在った透明な容器に放り込んでいく。
透明な容器にもいくつか種類があるようで、水を飲む際に使用する容器に似た形から、上部が管のように細くなった花瓶のような形まで幾種類か確認出来る。
ヒヅキが刻んだ素材を放り込んだ容器は、寸胴ながらも口がやや広くなっていて、一部注ぎやすいようにか凹んでいる形をしている。
それに刻んだ素材を放り込んだ後、空間収納から取り出した水瓶から魔力水を注いでいく。注ぐ量は入れた素材が浸るぐらい。
その後に強い酒の匂いのようなモノを発する液体の入った器具を用意する。
それには太い紐のような物が入れられて、先端が外に出ている。何か実験をしていた英雄がそれに火を点けていたので、ヒヅキでも使い方は分かった。
輪っかに脚を4つ取り付けたような物の上には丈夫そうな金属の網が載っていて、そこに素材を入れた容器を置く。そして、その真下に先端に火を点けた器具を設置した。
『これでいいのかな?』
英雄が実験していた様子を思い出しながら、ヒヅキは目の前の器具に目を向ける。今のところ問題なく容器は火であぶられているが、容器の中の魔力水が沸騰するまではもう少し時間が掛かりそうだ。
『問題ないかと。後は沸騰するのを待つだけでしょう。容器は分厚いようでしたし、見たところ直火でも問題なさそうですから』
『まぁそうだね。もっとも、こうして無事に使用出来るというのを確認したかっただけなんだが』
沸々と沸き立ち始めた魔力水を眺めながら、ヒヅキは小さく肩を竦める。置かれていた実験器具が使用出来るのかどうか疑問に思っただけなので、ここで器具の使用を止めても問題ない。
そもそもそれ以外に何か明確な目的があった訳ではないので、このままあの謎の植物を使った実験に移行したとしても、この先どうすればいいのか困ってしまう。このまま素材を煮込んだとしても、どこまで煮るのか考えなければならない。
(ひと煮立ち程度なのか、それとも水分が完全に飛ぶまで煮込むのか)
どの段階で火を止めるのか、それだけでも結構な候補が存在する。もしもこれが目的あっての実験であれば、素材がその目的に合った状態になるように模索するのだが、それが無い状態なので困ってしまう。
ヒヅキはフォルトゥナとも話しながら、どうするかと決めていく。その間にも素材は煮込まれていく。
少しずつ選択肢の幅が減っていく中、二人は話し合いの結果、とりあえず素材がぐずぐずに煮崩れるまでそのままにする事に決めた。その後はすり潰して半固形状にでもすれば、一応の恰好はつくのではないかという結論だ。何となく実験っぽいというだけだが。
それが塗り薬にでもなればいいが、植物自体が謎なので、何かで実験したいところだった。流石にいきなり人体実験は躊躇われる。例え被検体が自分だったとしても。
そうこうしている内に、素材が丁度よさそうな状態になる。魔力水もほとんど残っていないので、ますは火を止めてから少し冷ます。
冷ましている間にすり鉢を見つけたのでそれを用意する。すりこ木は透明な容器と同じ材質だったが、形は見覚えのある棒状なので問題ないだろう。
それらを用意している最中に、容器を掴むのに丁度よさそうなものを見つける。金属製の大きな鋏のようなそれは、持ち手の反対側が物を掴むように板状になっていた。
それを使用して容器を持つと、慎重に中身をすり鉢の中に入れていく。元々素材を細かく刻んでいたので、既に中身はドロドロした液体になっていた。
それでもまだ形を残している部分もあったので、それらを潰すようにして混ぜていく。
しばらく素材を混ぜたところで、いい感じに半固形状態になった。見た目はどす黒いというか、何かの臓器でも潰したように思えてくるが、適当に作っただけなのでこれで完成でいいだろう。
『後はこれをどうするか、だが』
何か丁度いい容器でも在っただろうかとヒヅキが背嚢の中身を思い出していると、フォルトゥナが置かれている実験器具のひとつを持ってきた。
『これでどうでしょうか?』
そう言って差し出してきたのは、ふたの付いた寸胴の密閉容器だった。しっかりとふたを固定する金具まで付いていて、中身が途中で漏れ出る心配も無さそうに感じる。
『ふむ。いいんじゃない?』
という訳で、早速すり鉢の中身をその容器に移していく。ドロドロとした中身がベチベチと落ちていく様子は廃棄している気分になってくる。実際、似たようなものではあるが。
そうして粗方中身を入れ終えると、しっかりとふたをして、金具でそのふたを固定する。
ふたが固定されたのを確認した後、ヒヅキはその容器を、揺れが関係ない空間収納の方に仕舞っておくことにしたのだった。




