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神域への道70

 廊下を進みながら、ヒヅキ達は道中に在る部屋も調べていく。地下の部屋は空き部屋よりも何かしらの器具が置かれている部屋の方が多いようだ。

 そうして調べながら廊下を進むも、畑の部屋から先はこれといった発見はない。

 地上部分の建物を調べた経験から、そろそろ地下1階部分も調べ終わるだろうとヒヅキ達が予想したところで、何も無い部屋に到着する。

 一見すると地上部分に多かったただの空き部屋に思えてくるが、しかしよく見れば、部屋の隅に何かが落ちているのが見えた。

『なんだろうか?』

 フォルトゥナも見えているのを確認したヒヅキは、それが何かと首を傾げる。部屋奥の隅に落ちているので、廊下からでは全容は窺えない。ただ、小さな物体であるのは分かった。

 ヒヅキは警戒しながら部屋に入ると、そのまま慎重に部屋の奥へと進む。

 段々と距離が縮まると、その物体が何であるのかが見えてくる。部屋も中ほどを過ぎると、部屋の隅に落ちているそれが1冊の古めかしい本であるのが分かった。

 程なくして、その本の許まで到着する。本は紙を閉じただけの本のようで、一応表紙としてか茶色い紙が外側を覆っているのだが、その表紙は虫食いなのか穴だらけなうえにボロボロ。紙の端もくたびれていて、かなりの年期を感じさせた。

 ヒヅキは罠を警戒しつつも、その本を手に取ってみる。

『少しかび臭い? いや、これは何かの香りが残っているだけか?』

 畑の部屋で使用していた風の結界はとうに解除しているので、本を持った時に僅かに鼻先をくすぐった香りにヒヅキは首を捻る。それは古い書庫で嗅いだ事があるような香りに似ている気がしたが、しかし同時に、香水などの強烈な香りが僅かに残っていたかのような華やかさが混じっているようにも思えた。

(まぁいいか)

 少し待っても何も変化はないので、それが何かしらの毒という訳ではないようだ。外観を調べた後、ヒヅキは慎重に本を開いてみる。表紙や背表紙に表題なんかは何も書かれていなかった。

 カサリと今にも破れそうな音を鳴らしながら紙が捲れる。少し乱雑に扱うだけで破れてしまいそうなほどに紙が乾いていて、触れるだけで緊張してくる。

 虫食いの表紙だったというのに、中身は破れそうという以外は何も問題はない。書かれている文字は、残念ながら読めそうもなかった。

『やはり読めないか。しかし、文字の形が地上部分で見かけた本とは少し違うような?』

 文字の基本的な形は似ているので、もしかしたら世界ではなく時代か国でも違うのかもしれないなと思いながら、ヒヅキは読めないながらも文字を目で追ってみる。

『……さて、これは何と書いてあるのか』

 ヒヅキは残念そうにそう零しながら、文字を指で撫でる。この建物で本は何冊か発見しているが、内容が読めた本は1冊だけだ。それも文字が読める文字に変化したおかげ。

『この本も文字が変化すればいいのに』

 そんな便利な魔法があるのであれば、この本にも同じ魔法を仕込んでおいてくれたらよかったのにと思い、1度閉じた本を再度開く。

『無理か』

 そうやって、文字が変化する本で文字が変化するきっかけと同じ事をしてみたが、結果は変化なしというものだった。

 残念そうにヒヅキがそう口にしたところで、本に書かれている文字が急に溶けるように動き出した。

『何が起こっているんだ?』

 突然の事態だが、ヒヅキは冷静に本を注視する。変化した時の様子から、自身の考えが伝わったのだろうかと思ったが、おそらくそれは偶然だろう。

 水に溶けていくように変化していく文字は、水面をかき混ぜたかのように溶けあって渦を巻いていく。

 程なくして、水滴でも落ちたかのように波紋が本いっぱいに拡がると、渦巻いていた文字が揺れながら元の位置に戻っていった。

 それは僅か数秒ほどの出来事ではあった。それでも何がなんだかと訝しく思ったヒヅキだが、元に戻った文字を見て、何が起こったのか理解する。

『……文字が読めるようになっているな』

 突然の変化に一瞬理解が遅れたものの、先程読めなかった文字が読めるようになっていた。紙を捲って別の場所も確認してみるも、何処も読める文字に変化しているようだ。

 何がきっかけで変化したのかは不明だが、それでも読める文字になったのはありがたかったので、そこは気にしない事にする。それよりも、今は本を読むほうが先なのだから。

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