神域への道68
そうして、ほのかに明るくなったら削るのを止めて別の方向から削っていくというのを幾度か繰り返した結果、歪ながらも球状のような形が残った。
それは直径3センチメートルほどだろうか。余分な部分がまだ多いが、大きさについてはおおよそ把握出来た。
『それにしても、これが植物を動かしていた何かなのだろうが、こうして手にしているのに何も感じないな』
魔法関係であれば魔力を感じるはずだし、最近は魔導も修得したので、魔導関係であれば魔素を感知出来ただろう。それも確実ではないが、少なくとも手にしている物であれば、どんな微量でも分かるはずであった。
しかし、現在ヒヅキが手にしている何かからは何も感じない。塊根越しだからか光量も弱いので、このままでは暗い部屋で仄かに光っている置物としか思わないだろう。
だが、実際はこれで植物を動かしていたと推測出来るので、何かしらの力が込められているのは間違いないはずだった。
首を傾げるヒヅキの手元に顔を近づけたフォルトゥナも何も感じなかったらしく、ヒヅキと一緒に首を傾げる。
『ここまで来たからには切ってみようか。いや、当初の予定通りに削ればいいか』
『そうですね。それで何か分かるかもしれませんし』
結局、外から見ているだけではこれ以上分かりそうもなかったので、ヒヅキは当初の予定通りに何かが在る場所の塊根を削ってみることにした。小さいので削るのは簡単だし、もしも失敗してもまだまだ実験材料は残っている。
フォルトゥナに声を掛けた後、二人して何も見逃すまいと塊根を凝視しながら、ヒヅキは何かが在る部分を手際よく削る。
それで光は消えたが、一瞬だけその何かを捉える事が出来た気がした。
『魔素に似ていたような? いや、魔力と魔素の中間みたいな感じだったか?』
感覚としてはそれに近いか。何かの部分を削った瞬間に一瞬だけ放出されたそれは、魔力とも魔素とも付かない妙なモノであった。感覚としては両者の中間という表現がしっくりくる気がするが、しかし実際には別物であるようにも思えた。
『感覚としてはそうかと。しかし、それでいながら奥には得体の知れない何かが潜んでいるような、そんな感じもしました』
『ふむ。なるほど』
フォルトゥナの感想も聞いたヒヅキは、それについて思考を巡らしてみる。流石に情報は少ない、いや皆無に等しいが、それでもヒヅキには先程の感覚にどことなく覚えがあるような気もした。
(何だったか……?)
生憎と記憶には自信の無いヒヅキだが、それでも記憶を漁ってみる。もしかしたら覚えているかもしれないのだから。
(本当に微かな感覚だったからな)
魔力と魔素の中間のような感覚が強すぎて、その奥に隠れていたような、多分覚えのある感覚については本当に微かにしか覚えていない。ともすれば、次の瞬間には忘れてしまっているような捉えた感覚の弱さに、ヒヅキは眉根を寄せて考える。
「うーん」
ひとり唸りながらしばらく記憶を探ったヒヅキは、やっと乏しい記憶力の中から何かが浮かび上がりそうになる。
「………………ああ、そうか!」
程なくしてそのその記憶が鮮明になると、ヒヅキは思わず大きな声を上げてしまう。
『何か分かったのですか?』
それに驚くことなく、慣れたように問い掛けるフォルトゥナ。
『うん。さっきあの光が消える時に感じた感覚だけれども、あれを以前何処かで感じたような気がして思い出そうとしていたんだ。そうしてやっと思い出したんだけれども、あの魔力と魔素の中間のような感覚の奥の方に感じたやつは、どうやら今代の神と遭った時に感じた感覚にどことなく似ていたんだよ』
『という事は、あれは今代の神が関与しているのでしょうか?』
『その可能性はあるけれど、どうなんだろうか? 完全にあの時の感覚と同じという訳ではなく、あの時の感覚に似ている程度だから、もしかしたら直接は関与していないのかもしれないね……』
そう答えたヒヅキだが、だとしたらどうして似たような感覚がしたのか、というのが分からない。今代の神が実験の為に力を渡したというのも考えられるが、もしそうならば、この植物が何の実験になるのか謎なので何とも言えない。
二人で少しの間考えてみたが、分かりそうもなかった。なので二人は、とりあえず残っている他の植物でもう1度実験してみる事にした。




